はじめに

東京株式市場は方向感に欠く展開が続いています。10月31日から11月15日までの日経平均株価の騰落は6勝6敗、その間は毎日上げ下げが入れ替わる「鯨幕(くじらまく)」の相場となりました。

「鯨幕」とは陽線の白と、陰線の黒が交互に出ている状態を表すテクニカルの用語ですが、「鯨幕」が出ている相場は市場参加者が方向感を見失っていたり、あるいは相場を動かす材料に乏しい状態にあることが多いようです。


米中間選挙は波乱なく通過

相場を動かす材料とは何でしょう?直近では11月6日に実施された米国の中間選挙が注目されました。選挙結果は事前の予想通り上院は共和党が過半数を獲得し、下院は民主党が8年ぶりに過半数を奪回しました。議会のねじれ運営に対する懸念はあるものの、トランプ大統領の強硬的な外交姿勢が緩和されるとの期待もあります。

中間選挙後の米国株式市場は、上昇に動きやすいとの過去の経験則があります。現時点での株価は少し出遅れているように見えますが、トランプ米政権が掲げる政策のうちインフラ投資は民主党も主要項目に掲げていますので、党派を越えて実現に動くと期待されています。

現在の米国経済は大型減税の効果を享受し、先進国の中でも特に強い動きとなっています。今後はもう一つの目玉であるインフラ投資が実施に移されると、一段と強さが増す展開が期待され、米国や日本の株価上昇の原動力となる展開が見込まれます。

当面は米中首脳会談が注目材料

その他の材料として、米中の貿易戦争に伴う中国経済の減速懸念や、米アップル社の業績不透明感、英国のEU離脱問題など、何かと不透明な海外要因が出てきては株価が反応する展開が続いています。しかしこれらは足元で急に出現した不安材料ではなく、株式市場ではかねてから取り沙汰されてきたものです。

当面の最大の注目材料は、11月30日と12月1日にアルゼンチンで開催される20カ国・地域(G20)首脳会議と、それに合わせて予定されている米中首脳会談でしょう。トランプ米政権は今年9月に第3弾の対中関税として中国からの輸入品2,000億ドルに対する10%の制裁関税を発動しました。同時に2019年1月以降は税率を25%へ引き上げることを示唆しています。今回の米中首脳会談で、これ以上の関税引き上げは見送るなど貿易戦争の停戦合意に至るかどうか?株式市場はとても注目しています。

国内企業業績は堅調

このように、株式市場にはマイナス要因しかないのか?と思われますが、そんなことはありません。明るい材料もあります。それは国内の企業業績です。

3月決算期企業を中心とした上期の決算発表が11月15日で一巡しました。今回目立ったのは、業績が良くない銘柄が売られたのは通常の反応として納得できるのですが、業績が堅調あるいは年間の業績計画を上方修正した銘柄まで売られる動きが目に付いたことです。

日本経済新聞社の集計によると、11月15日発表までの1,585社(全国上場で金融、新興市場等を除く)の2019年3月期上期の純利益は前年同期比で19.6%増と2桁の増益となりました。一方、通期の純利益は前期比1%増の見通しです。上期と比べて伸びが急減速するイメージですが、これは前期の2018年3月期が米法人減税による利益の押し上げで純利益が同34%増と大きく伸びた反動によるものであり、実体は堅調であると言えます。

株価は売られすぎが意識される水準

日経平均株価の終値と、日経平均株価採用銘柄の予想一株利益(EPS)を見てみましょう(下図)。国内企業の業績不安が高まっているような報道もありますが、直近11月16日の日経平均株価の予想EPSは1,775.6円と、決算発表が始まる前である10月19日の1,730円から水準が切り上がりました。

一方、日経平均株価の予想PERは11月16日が12.21倍と、3月23日の12.22倍を下回り今年最低を更新しました。足元の東京株式市場は、海外の様々な不安材料の織り込みが進み、PERを見れば年初から見て最も割安な水準まで低下しています。

株価は企業や経済の成長を映す鏡です。企業の成長とは業績の成長であり、足元の株価は海外の不透明要因ばかりに意識が集中し、企業業績を必ずしも正しく反映していないようにも見受けられます。米中貿易戦争に伴う中国の景気減速懸念が重くのしかかっているからです。一方、日本電産や小松製作所など日本を代表する製造業の決算説明会の話を聞くと、中国景気の先行きには過度な懸念は抱いていないようです。

中国政府は10月1日から個人所得税減税を実施。更に年末へかけて財政や金融政策を総動員して景気の落ち込み防止に動くとの期待があります。上海総合指数は1月29日につけた年初来高値3,587.0323から10月19日の年初来安値2,449.1970まで約32%調整しましたが、足元では底堅く推移し底入れの動きを見せていることも見逃せません。

月末の米中首脳会談で貿易摩擦緩和へ動けば、中国の景気動向に影響されやすい国内のハイテクや設備投資関連企業が最も大きく恩恵を受けると期待されます。現在の東京株式市場は夜明け前の一番暗い局面にあるとも考えられ、割安な水準にあると言えるのではないでしょうか。

(文:いちよし証券 投資情報部 及川敬司)

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