はじめに
日本人のビール離れが止まらない。2016年のビール系飲料(ビール・発泡酒・新ジャンル)の課税出荷数量は前年比2.4%減、市場は12年連続の前年割れとなりました。
そんななか国内ビール大手4社の2017年の事業方針が出揃いました。そのなかで目を引いたのは、各社とも今年は「新ブランドを投入しない計画」だということです。
ビール業界といえば毎年、新ブランドが大々的に誕生し、広告宣伝合戦がにぎやかに繰り広げられるイメージがあります。昨年はアサヒビールから「ザ・ドリーム」が登場し、一昨年はサントリーが「ザ・モルツ」を投入しました。
発泡酒や第三のビールでも毎年のように新しいブランドが登場しては市場ににぎわいを加えてきたものです。そのビール業界において、大手4社がこぞって「新ブランドを投入しない」というのはどうしてなのでしょうか?
なぜ新ブランドを投入しないのか?
アサヒ、キリン、サッポロ、サントリーのビール業界4社は共に「既存ブランドの強化に注力する」という2017年の事業方針を表明しました。そして「今年は新ブランド投入は行わない」と言います。
この各社の方針は決して偶然重なったわけではありません。毎年のように新しいブランドが出現して宣伝競争が華やかだったビール業界が今、構造を変えようとしているのです。
その理由は、ビール税制の変更にあります。といっても実際に変わるのは10年後の2026年なのですが、かつてない大転換となるために、ビール各社は今年度、主力商品への資源集中を決めたのです。
大転換の中身は、これまで日本のビール市場をゆがませてきたおかしな税制の是正です。現在、ビールには350ミリリットルあたり77円の酒税がかかっています。そして、発泡酒は47円、第三のビールは28円というように材料や製法ごとに税額が違うルールになっています。
この体系が日本のビール市場を大きくゆがめてしまったのでした。
税制がゆがめた日本のビール市場
本場ドイツで定められた「ビール純粋令」では、大麦の麦芽、ホップ、ビール酵母と水だけを原料として作られた飲み物がビールであると決められています。それ以外の原料を使ったものはビールの品質向上に害があるとされていたのです。
ところが日本の酒税法では、材料の麦芽の比率を25%未満にすると税率が大きく下がります。技術的には添加物や香料を工夫すれば麦芽比率が少なくてもビールテイストな飲み物を作ることができるということで生まれたのが発泡酒という商品群でした。
さらに麦芽をまったく使わずにビールのような味を出す技術まで開発されます。それは発泡酒よりもさらに税が安く、第三のビール(新ジャンルとも呼ぶ)が誕生しました。
例えば、350ml缶をコンビニ等で買う場合の価格を比較すると、ビールは218円、発泡酒は159円、第三のビールは139円というように大きな価格差があります。これだけ価格が違うとなると、節約志向の強い消費者はビールよりも発泡酒や第三のビールを選ぶことになります。
実際に日本のビール市場はそのように動いたのですが、そのことのなにが問題なのでしょうか?