はじめに

11月に入り原油価格が急落しています。NY原油は春先から10月まで1バレル65ドルから75ドルの範囲で推移していましたが、11月1日に65ドルを割り込み、20日には53ドル台まで下落しました。

原油価格はガソリン価格や電気料金などを通じて、経済に直接影響しますが、株価との連動性もあり、市場心理のバロメーターという側面も持っています。今回は、原油価格が決まる仕組みと株価などへの影響を見ていきたいと思います。


基本は需給の変化だが投機マネー影響も

原油価格は複数の指標があります。実際の取引では、ガソリンなどの軽質分や硫黄分の含有割合で油種も価格も異なりますし、実際の取引では長期契約の割合が高くなっています。しかし、金融市場でよく使われる国際指標は主に3つで、NY原油先物(ウェスト・テキサス・インターミディエイト、WTI)、ブレント原油先物、ドバイ原油スポット価格です。

原油価格は基本的に需要と供給のバランスで決まります。需要側の主な価格変動要因は、世界経済の変動、特に米国のガソリン消費動向や中国の産業活動や景気の変化などです。

石油消費量は北半球の国々の方が多く、北半球が夏となる時期は、電力消費が増え、石油使用量も高まります。特に米国では旅行等でガソリン消費も増えやすくなります。主要国の景気指標に加え、米国のガソリン在庫量の変化も原油価格を左右します。

供給側の主な価格変動要因は、原油生産のほぼ半分を握る石油輸出国機構(OPEC)の生産計画や実際の生産動向と、非OPEC諸国、特に米国とロシアの生産動向が中心となります。さらには、産油国周辺の紛争や経済活動停滞による生産能力低下、経済制裁なども原油価格を左右することがあります。OPECならびに国際エネルギー機関(IEA)の発表する統計に加え、米ベイカー・ヒューズ社が公表する北米稼働リグ数の変化も注目されています。

また、原油取引市場では、原油の買い手と売り手だけが取引している訳ではありません。多くの投資マネーが入っていて、上記の様々な統計や関連ニュースに反応して、売買を繰り返しています。株式市場と同様に、思惑や期待も織り込まれますから、時に投機的な動きに発展することもあります。特にWTIは投機マネーの影響が大きいと言われています。

価格変化の影響は幅広い業種に

原油価格の変化は、経済と金融市場に様々な影響をもたらします。まず、直接的な影響は、ガソリン価格や寒冷地を中心とした灯油価格の変化が、個人消費や産業活動に与える影響です。米国などガソリン使用比率の高い国は、ガソリン価格が上昇すると消費節約志向につながる傾向にあります。また火力発電コストが変わるため、電気料金にも影響します。

特に影響を受けやすい業種は、石油会社や電力会社、電気料金、航空会社、トラック業者、海運各社などの運輸業、石油由来の化学工業品を製造する化学業界、原油権益を持つ商社などが挙げられます。さらには、農業・漁業のコストにも影響するため、農産物・水産物価格、食品加工業、外食産業にも影響します。

原油価格と株価の相関は高いことが多い

株価に影響を与える指標として、為替レートを連想する人は多いかもしれません。それではここで、ドル円レートと原油価格をそれぞれ日経平均の動きを比べてみましょう(下図)。それぞれを見てみると、常に連動している訳ではありませんが、為替レートと連動している時も、原油価格と連動している時もあります。特に直近数週間は為替よりも原油価格との連動性が高そうです。

株価分析にはWTIに注目、今後の見通しは

原油価格と株価の相関性は、景気や影響のある業種への直接的な影響だけではなく、市場心理面への影響が大きいことが背景にあります。その観点から言えば、代表的な原油価格指標のうち、投機マネーの影響があるWTIが、株価を見る上で有効と考えられます。

最近の急落は、米中通商摩擦の影響を含めた世界経済減速の懸念がある一方で、米国の生産水準が高止まりするなど世界的に供給過剰懸念が台頭していることが背景にあります。

米国が対イラン経済制裁再発動に際し、8ヵ国をイラン産原油の禁輸適用除外としたことでイランの減産可能性が後退したことも要因です。OPECは減産を協議する見通しですが、米政権がその動きをけん制しており、減産→価格回復となるかは不透明なままです。

原油価格急落による資源国の景気後退観測から、資源国通貨売り→米ドル買いの動きも出始めています。市場不安が高まったときには米ドルと円が買われやすいため、米ドルと円の間では変化がなく、今のところ円売り=円安とはなっていませんが、今後の動きは気になります。8月の「トルコ・ショック」時のように新興国通貨・ユーロ安となれば、株価も変動しやすくなるリスクがあります。

2019年を見通した場合、米国と中国の経済は減速傾向になる可能性があります。通商摩擦のマイナス影響はこれから本格化しますし、米国の利上げ終了も意識されやすくなります。

基本的に産油国の原油生産能力は、世界需要より大きく増産余力が常にあるため、原油価格が上がれば「儲けたい」国が増産する構図は今後も続きます。12月のOPEC総会で、OPECとロシア等が減産合意できれば、2016年11月の減産合意時のように原油価格の急回復も期待できますが、合意が確認できるまでは価格が停滞する可能性が高そうです。

(文:松井証券 ストラテジスト 田村晋一)

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