はじめに
男性62%、女性47%――これは、国立がんセンターの最新がんデータ統計による、生涯でがんに罹患する確率です。2人に1人が罹患する可能性があるがんについての知識は、いつ来てもおかしくない自分や大切な人ががんに患した時のために欠かせない、大切な情報になります。
がん保険CMにも出演し、2018年3月に25歳で逝去した山下弘子さん。19歳で巨大な肝臓がんが見つかり余命宣告を受けても、病に負けず、全力で“今”を生き抜く姿が印象に残っている人もいるのではないでしょうか。
今回は、弘子さんの夫・前田朋己さんに、現代社会で後悔なくがんと共生するために必要なお金の話について語っていただきました。「余命半年」と告知された弘子さんと、彼女が20歳の時に出会い、その後の5年を一番近くで過ごした前田さんから見た、がん闘病の実態とは――。
治療費の一部が戻ってくる治療、戻ってこない治療
――がんとの闘病には、どれくらいのお金がかかるのでしょうか?
前田朋己さん(以下同):がん治療というと、とんでもない金額がかかるとイメージしている人も多いかもしれませんが、実は、保険適用の治療であれば、そこまで莫大なお金はかかりません。
なぜなら、日本には「高額療養費制度」というものがあるから。これは、医療費が家計を逼迫しないように、月あたりの医療費が一定額以上になると、その分を払い戻ししてくれる制度です。健康保険組合や共済組合、国民健康保険に入っていれば、誰でも申請することができる。
年齢や所得に応じて定められていて、いくつかの条件を満たすと、負担を更に軽減するしくみも設けられています。
たとえば、治療で入院しなくてはいけなくなって60万円くらいの医療費が掛かることになったとしても、健康保険に入っていれば自己負担は3割の18万円程度。さらに、この高額療養費制度を使って手続きすれば、数か月後にお金が戻ってくるので、実質10万円もかからない場合もあります。
だから、長い間入院するような場合にベッド代や食事代がかかったとしても、めったなことでは、何百万円という医療費になることはありません。
ただし、「手続きができるのは診察を受けた月の、翌月の初日から2年間以内」など、細かな条件があったりするので、自分がどのケースにあたるのか、きちんと調べる必要があります。
――では、がんの治療にかかるお金の心配は、そこまでしなくてもいいのでしょうか?
そうとは言い切れません。
先進医療のように、保険適用外で自費負担となってしまう治療もあるからです。
先進医療とは、厚生労働省が定める高度な医療技術が用いられた治療。将来的には保険などの適用が検討されていますが、先進医療と呼ばれている段階では特定の大学病院などでしか実施されていません。
なので、通常の保険診療と共通する部分以外は保険適用されずに技術料が100%自己負担になってしまいます。
例えば、放射線治療の一種である重粒子線治療は日本が世界に誇る治療法ですが、300万円前後します。例外的なケースではありますが、お金の心配がいらないとは言えない。
――実際、弘子さんの場合はどうだったのでしょう?
一部の治療では、費用がとてもかかりました。
高額療養費制度にも対象外の治療があって、それはやっぱり自己負担になってしまうからです。
ひろの治療にはオプジーボも使っていたのですが、当時は保険適用外だったため、おそらく月に100万円以上はかかっていたでしょう。年間1000万円以上にはなっていたと思います。