はじめに

2018年10月以降の株式市場は不安定な動きをみせました。株価の下落局面や不安材料の多い時期は、なかなか手が出しづらいものです。しかし、不安材料が薄れてから株式を購入しようとするとタイミングを逸してなかなか買えないか、株価の高いところばかりで購入するということになってしまいます。

そうならないためにはどうしたらよいのでしょうか。ヒントは19世紀のアメリカ、“ゴールドラッシュ”にありました。


着実な資産形成を目指す際のポイント

2018年10月以降、市場の不安心理を表すVIX指数(注)を見ると、警戒水準が続いていました。VIX指数とは、シカゴ・オプション取引所が算出する、米S&P種株価指数の予想変動率です。投資家の不安が高まり、値動きが激しくなると上昇するので「恐怖指数」とも呼ばれます。一般的には20を超すと警戒ゾーン、30超は危険ゾーンとされています。

いつの時代でも不安材料がない時期などありません。着実な資産形成を目指すためには、中長期的に評価できる銘柄をいくつか選別し、長期で保有するといった投資スタンスをとることが必要となります。まさに「継続は力なり」です。

長期で保有する際、投資先はどう選ぶ?

長期で保有するからには、それに耐えうる投資対象でなければなりません。長期投資の観点で銘柄を選ぶ際のアイディアは様々ありますが、ゴールドラッシュを経て、最終的に成功をおさめた企業を参考にしてみましょう。

アメリカのゴールドラッシュは1848年カリフォルニアのサクラメント川付近で金が発見されたことで始まりました。その成功者の1人が、リーバイ・ストラウスです。リーバイは、急激に採掘者が増えている点に着目して、こうした人々向けに商売をしようと考えました。採掘者達は、山地で金鉱を求めて毎日労働をしていたために、ズボンが耐え切れずにすぐに破れてしまうのが悩みでした。

そこで、リーバイは商い用に持っていたテント等で使われていた厚手のキャンバス地を用いて、膝がボロボロにならず、どんな動きにも耐えうる丈夫なズボンを販売したのです。これが評判を呼び、ジーンズで有名なリーバイ・ストラウス社が誕生しました。

次に、ヘンリー・ウェルズとウィリアム・ファーゴが始めたビジネスを見てみましょう。採掘者達は各地から集まってきたため、稼いだお金を預けたり、故郷にいる家族に送金したり、家族との荷物や手紙のやり取りをしたりするサービスを必要としていました。

ここに目を付けたウェルズとファーゴは、採掘者達のために駅馬車網を使って、安全で確実に送金や輸送をできるシステムを作り上げたのです。その後、銀行を上回る信用力を得て、金融機関そのものへと脱皮していきました。2人の名前をとって設立されたウェルズ・ファーゴ社は現在、カリフォルニア州サンフランシスコを拠点とする大手地銀にまで成長するに至りました。

そう、このゴールドラッシュで儲けることができたのは、金を採掘した人ではなく、金を掘るために必要なもの、人々が生活するうえで欠かせないものやサービスなどに目を付けた人でした。

金脈は伸びている業界の“隣”にあり

アメリカのゴールドラッシュの成功例をヒントに、伸びている業界そのものではなく、伸びている業界向けに独自のビジネスを展開している企業に着目していてはいかがでしょうか。伸びている業界は参入者が多く、非常に競争が厳しいという傾向がある一方、こういった業界向けに独自の画期的な製品やサービスを提供する業界(企業)は過当競争から一歩引いたところで優位にビジネスを展開できる可能性があるのです。

1つの例が医療機器業界でしょう。世界的な人口増、高齢化の進展によって、今後、医療スタッフや医療サービス等が一段と必要になります。こうした医療ニーズの高まりに応えるのが医療機器業界といえます。

同業界の世界市場は全体で約40兆円もありますが、各メーカーは様々なニーズに応えるために、分野別に細分化された市場ごとに向き合わざるを得ず、多品種少量生産という特徴があります。したがって、参入障壁が高く、先行者メリットが継続しやすいと考えられます。

特定分野に強みを持つという観点から、人工内耳で世界最大手のコクレア、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療機器大手のレスメド、またM&Aによって専門性の幅を広げているという観点から、製品ラインナップで群を抜く総合ヘルスケアのジョンソン・エンド・ジョンソン、ペースメーカーのメドトロニックなどが注目されます。

もう1つの例が、再生可能エネルギー業界です。米国における再生可能エネルギーの普及を主導しているのが、米IT企業です。あらゆるモノがネットにつながる「IoT(Internet of Things)」や動画配信の普及でデータ量は急増し、処理するためのデータセンターの投資が増えています。

さらにデータセンターは大量の電力を消費するため、発電所の増設が必要です。この電力は気候変動への対応といった観点や経済合理性の観点から風力・太陽光発電によって賄われるようになってきており、同分野で独自の地位を築いているネクステラ・エナジーなどが注目されます。

(文:大和証券 投資情報部 花岡幸子)

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