はじめに

おせちをめぐる2つの変化

かつての正月は家族全員がそろって、自宅などでゆっくり過ごすスタイルが一般的。したがって、おせちも各家庭で作るのが主流でした。しかし現代では、家族で旅行に出かけたり、そもそも正月休みの直前まで仕事に追われる共働き世帯が増えるなど、ライフスタイルの変化に伴い、自家製おせちは時代に合わなくなってきました。

つまり、おせちは「作る時代」から「買う時代」へと変化したわけです。実際、ローソンストア100の調査によると、2015年には14.3%いた「すべて手作り」という回答が2018年には13.4%まで減少。逆に、「すべて購入」は14.1%から18.2%に増加。一部購入を含めると、全体の8割以上がおせちを買っていることがわかりました。

おせちをめぐるこうした大きな潮流に、最近新たに加わった要素が「SNS映え」です。撮影したおせちの写真をインスタグラムなどにアップする際、購入したままの状態では自分らしさが足りない。あるいは、セットで購入したら、不要なものまで入っている。SNS映えする“自分だけのおせち”を用意するには、カスタマイズが不可欠になっているのです。

まとめると、おせちを購入するのが当たり前に時代になり、お正月くらいは少し豪華なものを食べたいと、単価の上昇傾向が継続。ただ、購入したおせちの写真をそのままSNSで共有したのでは他の人とカブってしまうため、小分けになった格安おせちをチョイ足しすることでカスタマイズする――。

これが、一見すると二極化が進んでいるように映る、おせち消費の背景にあるものだと考えられます。

SNS映えするおせちの作り方

こうした一連のトレンドを体現しているとみられるのが、最近じわりと認知が高まっている「ワンプレートおせち」です。これは、従来のおせちのような重箱ではなく、大きめの皿におせち料理を盛り付けたもの。「野菜からメイン、デザートまで1つのプレートに盛り付けるカフェご飯の流行をおせちに取り入れたものです」(楽天の小野さん)。


SNS映えで認知が高まっている「ワンプレートおせち」

自分で選んだ食材を、重箱よりも自由度の高い皿に、自分流でオシャレに盛り付けることで、SNS映えする個性を出せる点が、ウケている理由のようです。この時、見栄えするためのいくつかのポイントがあると、料理研究家の小林睦美さんは指摘します。

1つは、同じ色の食材が重ならないよう、離れた場所に置くこと。ほかにも、黒豆や栗きんとんは小鉢に入れることで、さらに見栄えが良くなるといいます。また、服装で親子のリンクコーデが流行ったように、ワンプレートおせちでも親子で同じ食材を使いながら、子供のプレートには干支をモチーフにしたデコレーションを加えてあげると、おせちのリンクコーデが可能になります。

二極化という表層の下で起きていた、おせちのパーソナライズ化の波。これが増幅していけば、近い将来、新年のコミュニケーションは年賀状ではなく、SNSへの自分流おせちの投稿がメインストリームになるかもしれません。

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