はじめに

会社が社員に求めること

正しい自己評価ができない人の人事評価が低くなる理由が、もう一つあります。

西尾さんによれば、会社は社員に「変化」と「成長」を求めています。しかし、自己評価が正しくできず、自分の現状がわからない人は、何をどう変えていけばいいのかがわかるはずもないため成長する可能性が低い。したがって評価も低くなるのです。

なぜ、会社は「変化」と「成長」を求めるのでしょうか? それは会社が、給与とは、「社員が会社や世の中に提供した価値(=成果や行動)の対価」だと考えているからです。

会社は、年収300万円の人と1000万円の人に対して、まったく違う価値の提供を求めます。当然、昇給するごとに、会社が要求するレベルは上がっていくのです。それを表すのがコンピテンシー(成果につながる行動特性)です。コンピテンシーは評価基準そのものといえます。

たとえば、新人クラスに求められる重要なコンピテンシーの1つは「協調性」です。自分の意見が異なっていても、チームワークを重視する姿勢が評価されます。しかし、チーフクラスになると「主体性」が重視されるようになります。周囲に合わせるだけでなく、やるべきことを自ら考えて動くことが求められるからです。さらにマネージャークラスには、計画立案や人材育成など、組織レベルのマネジメント能力が問われることになります。

つまり、要求レベルに応じて「変化」することができず「成長」しない人は、昇給できないしくみになっているわけです。

変わることができるのは、自分の得意なことや苦手なことをよく理解して、行動を変えることができる人です。だから「正しく自己評価できる」ということが非常に大事なのです。

欠点や弱みも武器にできる

もし自己評価と人事評価にギャップがあると少しでも感じたら、たとえ不満であっても、いま一度自分と向き合い、客観視する努力をしてみましょう。自分のダメな面を認めるのはつらいことですが、直視しなければ変わることはできません。

西尾さんは、「一般的には欠点や弱みとされる性格的特徴も、視点を変えれば武器になる」といいます。

たとえば、「自分には決断力がない」と思っている人も、多くの選択肢のなかから答えを選び取れるように情報収集力や分析力を磨いていけば、「熟慮のうえ正しい意思決定ができるマネージャー」として頼りにされる存在になるかもしれません。

「頑固」であることは若いときには低い評価になりがちな特性ですが、自分を理解して仕事を続けていけば、妥協しない仕事ぶりを高く評価する人も現れるでしょう。

企業が敬遠しがちな「ストレスに弱い」という弱点は、人の気持ちが敏感にわかることの裏返しです。気配りが必要なヒューマンマネジメントに力を発揮できるはずです。

そもそも完璧な人間などいないのです。どんなに高く評価されている人でも、弱みや欠点は必ずあります。そこから逃げることなく、自分と向き合っているから、仕事の質が向上し、ますます高く評価されるのです。
なんでもできるスーパーマンになる必要なんてありません。会社もそんなことは求めていません。苦手なことがあっても、それに対処する方法を考えればいいのです。
(126ページより)

なぜ、結果を出しているのに評価が低いのか 西尾太 著


昇進、昇給、ボーナス、異動、左遷、リストラ、転職、起業、キャリアのすべては「評価」によって決まる。そこで、これまで300社、1万人以上のビジネスパーソンを見てきた人事の超プロが「評価の仕組み」と「正しく評価される方法」を初めて明かします。

(この記事は日本実業出版社からの転載です)

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