はじめに
JASRACが音楽教室から著作権使用料を徴収する方針を固めたことについて、アーティストも巻き込んだ大騒動へと発展しています。
今回の徴収にいたった背景と受講料収入の2.5%という数字の妥当性について探りました。
JASRACはどんな団体なのか?
JASRAC(一般社団法人日本音楽著作権協会)は、2018年1月よりピアノやギターなどを教える街の音楽教室から年間受講料収入の2.5%を著作権料として徴収する方針を固めました。今年7月に文化庁に申請する見込みで、対象となる教室は9,000ヶ所におよびます。
これに対し、ヤマハ音楽振興会や河合楽器製作所などは「教室での利用は使用料が発生するケースには当たらない」と大きく反発。
歌手の宇多田ヒカルやロックバンド・くるりの岸田繁、アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」の主題歌を手掛けた作詞家・及川眠子氏など、アーティストたちも巻き込んだ大騒動になっています。
そもそもJASRACとは、一体どういった団体なのでしょうか?
公式ホームページによるとこのように紹介されています。
>JASRACは、膨大な数の管理楽曲をデータベース化し、演奏、放送、録音、ネット配信などさまざまな形で利用される音楽について、利用者の方が簡単な手続きと適正な料金で著作権の手続きができる窓口となっています。そして、お支払いいただいた使用料は、作詞者・作曲者・音楽出版者など権利を委託された方に定期的に分配しています
つまり、作詞・作曲者など楽曲の権利者のためにその利用を適切に管理する”権利者の味方”なのです。
しかし、今回は権利者であるアーティスト側からも反発が生まれています。
JASRACはすでにカラオケ教室・ボーカルスクールやダンス教室、音楽を教えるカルチャーセンターなどからの著作権料の徴収を行っています。楽器を教える音楽教室からの徴収に、なぜこのタイミングで踏み切ったのでしょうか?
JASRAC広報部によると、「音楽教室との話し合いは、2003年から行ってきました。しかし、なかなか折り合いがつかず、2003年以降に交渉が始まった各種教室からの徴収が始まったのち、今回のタイミングとなりました」とのこと。
自身が作詞を手がけた作品も持つ、エンターテインメント評論家の麻生香太郎氏は、「逆に、今まで著作権料を払っていなかったことにびっくりです」と驚きを口にします。
「誰かが作った音楽を使ってビジネスをする場合にはその権利者にお金を払いましょう、ということが著作権ビジネスの仕組みなので、これまで対象になっていなかったことに対し、JASRACが徴収を始めることは妥当な流れです」(麻生氏)
テレビ局からは放送事業収入の1.5%を徴収
ただ、気になるのは年間受講料収入の2.5%という金額。徴収額はおおよそ10~20億になると推定されていますが、その額はどのように決められているのでしょうか。
「ほかの徴収対象分野とのバランスを考慮のうえ、演奏の実態などを鑑みて決定しました」(JASRAC広報部)
麻生氏は、この数字に対して「例えば、テレビ局に対してJASRACは包括契約を結び前年度の放送事業収入の1.5%を著作権料として徴収しています。これから両者が協議を行い、その額については引き下げや数年の据え置き期間が設けられる可能性はあるかもしれません。もし裁判にいたると過去の判例から教室側が敗訴する可能性が高いため、音楽教室側が払わざるを得ない状況になっていくと思われます」と言います。
知らずに払ってる? 著作権料
著作権料というと、私たちには関係がない話のように思えますが、例えばカラオケボックスは部屋数や各部屋の定員数にあわせて著作権料をJASRACに収めています。
外部推計では「1曲歌われるたびに5円前後の印税が発生」といわれており、間接的にはなりますが、私たちも知らずに著作権料を支払っているとも考えられます。
今回の音楽教室からの徴収が始まると、その負担額がレッスン料に転嫁され、毎月の月謝が上がることも予想され、家計への影響も。
ヤマハ音楽振興会らは「音楽教育を守る会」を発足。「演奏権が及ぶのは公衆に聞かせるための演奏であり、音楽教室での練習や指導のための演奏は該当しない。文化の発展に寄与するという著作権法の目的にも合致しない。今後は本会を通じて対応していく」と表明しています。