はじめに

2019年初の米株式市場は、大荒れの展開となりました。NYダウ平均については、アップルの売上減少懸念で大幅下落となった後、雇用統計の好調な結果を受け、大幅上昇となりました。株式市場が、色々な材料に敏感に一喜一憂していることが分かります。

そこで、冷静な判断をするため、今回は一歩身を引いて、長期的な視点で景気循環から米国景気を考えたいと思います。


見通しにくいトランプ政権

マティス国防長官など主要スタッフの交代によりトランプ政権の政策が先鋭的なものになることが懸念されています。この結果、トランプ政権と中国や米民主党、連邦準備制度理事会(FRB)など外部との関係が(更に)悪化することなどを通じて、経済活動が委縮し、米景気が後退局面入りするという懸念を抱く方も多いのではないかと考えます。

この懸念については、市場が不安定な中で、トランプ政権の対外姿勢が軟化するという見方がある一方で、トランプ政権の混迷は加速するという見方もあります。

しかし、米中貿易・知財問題をとっても、着地内容や時期、そして着地内容が景気に与える影響について確信をもって予測することには困難が伴い、予断なくニュースを丹念に追うことが重要です。

株式市場の変動性の高まりは2019年を通じて続く可能性があると考えていますが、このような局面では、上にも下にもオーバーシュート(行き過ぎた動き)が起こり、投資には冷静な判断が要求されると考えます。

そこで、今回は一度トランプ大統領から離れて、(1)米国景気の現状と(2)景気循環から考えた先行きを考えたいと思います。

景気後退懸念が渦巻く米国景気

まず、米国景気の現状についてです。2018年の米国について考えると、1~9月までの3四半期分の実質GDP(前期比年率)は、第1四半期から順にそれぞれ+2.2%、+4.2%、+3.4%と良好な数字です。

昨年後半から、米経済指標の一部で弱い数字が発表されていますが、10~12月期のGDPについても、これまで発表されている経済指標に基づきアトランタ連銀は+2.8%、ニューヨーク連銀は+2.5%(いずれも2019年1月16日時点)と2%半ばの成長を予測しており、4~6月期の+4.2%と比べれば鈍化していますが、水準としては、2%前後とみられる潜在成長率を上回る高いレベルを維持していると考えるべきだと思われます。

次に、先行きに目を転じた場合、+4.2%を頂点とした鈍化は、今後マイナス成長となり、景気後退局面に入るという考え方があります。

そして、景気後退懸念の根拠のひとつが、循環的な景気後退です。米国の戦後最長の景気拡張月数は120ヵ月であり、リーマンショック以降続いた今回の景気拡張期は、2019年中に120ヵ月を抜くため、循環的に景気拡張期が終わりに近づいているという考え方です。

循環的な景気後退局面が来ているのか

そこで、戦後の米国の景気循環を整理してみましょう。全米経済研究所(NBER)が発表している景気循環を確認してみます(下図)。

まず、この表によると、米国においては、景気拡張期が圧倒的に長いことが分かります。
メディアをみると、景気を心配する報道がいつの時期においても満ち溢れているように感じるのですが、1945年10月(景気の谷)以降の景気循環を考えた場合、景気拡張期の割合は86%です(なお、12回目の拡張期を含まず、計算した場合は84%)。

また、景気拡張期の平均が58ヵ月である一方、景気後退期の平均は11ヵ月に留まっています。100年に一度と言われることもあるリーマンショックにおいても、景気後退局面は、18ヵ月でした。

このデータからは、米国においては景気が拡大期であることは通常(確率86%)の状況であり、後退期であることは例外(同14%)であることが分かります。

次に、直近3回の景気拡張局面の長さは、いずれも過去平均を超えていることが分かります。景気循環を引き起こす要因には諸説ありますが、短期の景気循環とされるキチン循環は企業の在庫変動に起因すると言われます。戦後直ぐのように、情報が少ない時代においては、経済環境に応じた適正な量の在庫を企業が確保することは困難であったと思われます。

一方でPOS(販売時点情報管理)データなど、情報がネットワークを駆け巡る現在では、在庫管理が洗練され、在庫変動に起因する景気循環の波が起こりにくくなっていると考えることは自然であると思います。

したがって、IT技術の進歩が著しい中、過去の景気循環から、将来の景気後退局面入りのタイミングを推測することは、従来より難しくなっているのではないかと私は考えます。

もちろん、景気はいつか後退局面入りすることは確かなのですが、投資においては、その時期が2019年中であるのか、そうではないのかは大きな意味を持ちます。そして、私自身は、前述の雇用統計に表れているように、雇用が好調な中では、個人消費が米景気を下支えするため、景気鈍化を超えて、景気後退局面入りする可能性は低いと考えます。

<文:チーフ・グローバル・ストラテジスト 柏原延行 写真:ロイター/アフロ>

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