はじめに
1月のとある休日、東京・二子玉川の複合施設「二子玉川ライズ」を歩いていると、やけに賑わっている店舗がありました。行列のできる有名ラーメン店かと思って覗いてみると、どうやら飲食店ではなさそう。隣接するインテリアショップと似た雰囲気もありますが、業態はまったく異なるようです。
実はこの店舗、「FaSS(ファス)」という名前のヘアサロン。二子玉川に開店したのは2015年4月ですが、今も月平均で約2,400人が訪れるという超人気店です。
「Fast Salon for Slow Life」の頭文字を取った店名が表しているように、通常のヘアサロンでは考えられない短時間でヘアカットしてくれるのが特長の1つ。しかし、人気の理由はそれだけではないようです。“爆速ヘアサロン”の秘密を探ってみます。
QBハウスの運営会社が展開
短時間・低価格で気軽に通えるファストサロン。今、美容業界で人気になっている業態ですが、FaSSもその中に含まれます。
カットとスタイリングの施術で、所要時間は約20分。料金は大人が2,000円(税別、以下同)で、学生は10%引き、小学生以下は25%引きとなっています。
予約は受け付けておらず、利用したいと思えば、受付にあるタッチパネル式の券売機で申し込めばOK。券売機には待ち人数と待ち時間の目安が表示されており、申し込んでしまえば、自分の順番が来るまで店外で時間をつぶしても大丈夫。仕事帰りや買い物の合間などにふらっと立ち寄れるのも、人気の理由となっているようです。
このFaSSを運営しているのは、カット専門店「QBハウス」を展開するキュービーネットという会社。QBハウスというと“おじさんが通う店”というイメージが強いですが、FaSSの客層は30~40代が中心で、利用ベースだと男女で半々だといいます。
利用客数は4年で4倍に
中目黒に1号店を開業したのは、2011年7月のこと。現在では、店舗網は都内11店舗、神奈川県内2店舗の計13店舗まで拡大しています。
店舗網の拡大につれて、利用客数も年々増加。2014年度には4.5万人だったものが、2017年度は17万人、2018年度は19.5万人と右肩上がりになっています。
そうした中でも、冒頭で触れた二子玉川ライズS.C.店は異例の高成長を遂げている店舗。通常の店舗であれば、オープン翌月に600~800人、半年かけて1,000人になると巡航速度とされていますが、二子玉川はオープン翌月に1,500人、開店から3年が過ぎた現在でも2,400人が利用しているといいます。
メインの客層は、地元に住むリピーター。開店当初は女性客が多いものの、口コミで徐々にパートナーの男性や子供を連れてくるというパターンが多いそう。前述のように利用ベースでは男女半々ですが、男性のほうがカットサイクルが早いため、顧客数ベースでは女性が男性の3~4倍だといいます。
カウンセリングと居心地の良さ
FaSSの何がリピーターの心をつかんでいるのか。1回2,000円という低料金やスキマ時間に立ち寄れる手軽さも大きな要因ですが、人気の秘密はそれだけではないようです。
店舗のデザインコンセプトは「やさしい家」。「有名スタイリストのいる美容院の多くは、内装がきれいで、スタイリストとも話さないといけないというプレッシャーもあります。そこでFaSSでは、お客様が気軽に気張らず、居心地よく過ごせる空間を意識しています」(FaSS事業を担当するキュービーネットの松本一朗さん)。
シンプルな内装で居心地の良さを追求
店舗のインテリアは、有名インテリアショップのアドバイスを受けて選んでいます。カットとスタイリングをするセンターテーブルは家庭のダイニングをイメージ。待ち合いスペースやキッズスペースにはアースカラーのソファを配置し、リビングのような空間づくりを心掛けています。
利用客にカウンセリングとして希望の髪型を聞く時は、QBハウスで培ったノウハウを生かして、二者択一で質問していきます。ただ、QBハウスと違うのは、利用客の希望を一通り聞いた後、スタイリストから提案を加えること。これによって、「カット専門店なのに、そこまでやってくれる」という付加価値が生まれるわけです。
「カウンセリングと居心地の良さがリピートにつながっているのではないでしょうか」。松本さんはそう分析します。