FaSSを生んだ2つのルーツ

それにしても、QBハウスの会社がなぜ美容院も手掛けるようになったのでしょうか。前出の松本さんに尋ねると、FaSSには2つのルーツが存在しているのだといいます。

1つは、キュービーネットが2005年に開発した「キャトルボーテ」という女性向け業態。FaSSと同様、1回2,000円、約20分でカットとスタイリングを提供していました。もう1つのルーツが2011年に開業した「IKKA」という業態。埼玉県熊谷市にあるファミリー向け商業施設のために開発しました。

順調に業容が拡大してきたQBハウスですが、社内には美容室世代の男性客が取り込めていないという課題があったそうです。そうした中で耳に入ってきたのが、女性向けのキャトルボーテに男性客が来店しているという情報でした。

一般的な都内の美容室だと、カットだけでも4,000~5,000円が必要。トップスタイリストを指名すると、6,000円になることもザラです。しかし、30~40代になって家庭を持つと、可処分所得も、自分の自由になる時間も減ってしまうもの。カットに4,000円もかけたくないという層が相当数いるのではないか。

キャトルボーテでの発見に加えて、IKKAの開発によってファミリー客の獲得にも手応えをつかんだキュービーネット。費用を抑えて、短い時間でカットが済ませられるのがQBハウスの売りでしたが、イメージ的に通いづらい客層も少なくない。そうした老若男女を幅広く取り込むための受け皿として開業したのが、FaSSの1号店となった中目黒店でした。

指名制でないので接客がガツガツしない

FaSSの出店では「面としてよく見える場所」を厳選しているといいます。メインの客層が地元客なので、地元の人が頻繁に通る場所に店を構えることでスキマ時間に立ち寄りやすくする戦略です。逆に、表参道のような美容室に人気のエリアであっても、路地裏であれば出店しないといいます。

ただし、いくら面の良い場所に出店したとしても、店舗での対応が悪ければリピーターにはなってくれません。現場での努力が欠かせないわけです。


スマートフォンで待ち人数などを確認できる

一般的な美容室では指名制を採用しているところが多いですが、FaSSでは指名を受けていません。指名制を採用すると、スタイリストが次の指名も取ろうとして、ガツガツした接客になってしまうからです。客の取り合いになる心配もないので、スタッフのチームワークも良くなるといいます。

また店舗では、月に1~2回、最近の利用客の傾向や店舗の課題を議論しています。シャンプーやスタイリング剤など店舗での物販も控え、どうすれば利用客にとって居心地が良いか、次も来店したくなるかを徹底的に追求しているそうです。

30店態勢構築のカギは人材確保

これまでは東京23区内と横浜、川崎という都心部だけで店舗を展開してきたFaSSですが、昨年10月に初の郊外店となるフレンテ仙川店(調布市)をオープンさせました。今後は郊外でありながら、しっかりと集客できるエリアへの出店を進め、早期に30店態勢に持っていきたい考えです。

その時に欠かせないのが、スタイリストの確保。現在が13店舗なので、30店となると今の2倍強の人材が必要になってきます。

FaSSではカットとスタイリングだけを提供しているため、カラーリングやシャンプーを施す必要がなく、スタイリストは手荒れの心配がないといいます。スタイリストの中には、技術はあるのに手荒れがひどいために離職する人もいるそうで、キュービーネットではそうした人材の採用に照準を合わせています。

低料金かつ短時間、それに一般的な美容室と逆を行く現場対応で、美容業界のスキマを縫って拡大を続けてきたFaSS。成功パターンが確立されつつあるだけに、今後も順調に成長を続けていけるか否かは人材確保が大きなカギを握っていそうです。

<文:編集部 猪澤顕明>