新井和宏さんは、鎌倉投信の創業者かつ運用責任者(ファンドマネジャー)としてよく知られてきました。鎌倉投信といえば、利益偏重と言われがちな金融業界で企業の社会性を重視。独自の基準で選んだ “いい会社”に投資する姿勢で多くの支持を得ています。

しかし、新井さんは、このほど同社を退社。新たに投資事業会社「eumo(ユーモ)」を設立しました。eumoでは仮想通貨技術を通じたコミュニティー通貨の普及推進や社会問題に取り組むベンチャー企業(ソーシャル・ベンチャー)を支援するとのこと。

新井さんのeumoにおける“新しい金融構想”から、「そもそもお金とは?」「仮想通貨はなぜ気持ち悪い?」「未来のお金はどうなる?」といったお金の疑問や定義について金融マンとしての考えを伺いました。


鎌倉投信が軌道にのってきたときになぜ?

新井さんは、鎌倉投信で10年、社会の持続的な発展に貢献する企業の支援に取り組んできました。例えば、林業は成果が出るまでに時間がかかる。でも、資金援助を受ければ、返済のために短い期間でリターンを出さねばならないといった矛盾も生じる。こうしたことからソーシャル・ベンチャーを解放したい。そこで、満期のない投資信託にして保有し続けるなどの試みです。

――新会社「eumo」(ユーモ)でもソーシャル・ベンチャーを支援するとのこと。なぜ、今? また、これまでとの違いは?

新井(以下同): 鎌倉投信は投資信託委託会社ですが、これまでその仕組み上、まだどうしてもできないことがあったんですね。それをやるタイミングがちょうどきたんです。

どういうことかというと、投資信託委託会社は投資家保護のため、値付けに使う会社情報が毎日出てこない「上場していない会社」の株式に投資することは、広く遍く一般の方々に募集する公募の投資信託では許されませんでした。そこで、社債という形でソーシャル・ベンチャーを投資・支援してきた。

ところが、これらの社債の証券保管振替機構(ほふり)への登録や社債を発行した企業への利息請求などの事務管理を代行してもらっていた信託銀行*の法人部門が、メガ銀行に譲渡されることになりました。

*注)有価証券は、すべてのやり取りを電子管理するために証券保管振替機構(ほふり)に登録する必要がある。しかし、この登録をできるのは銀行もしくは証券会社のみ。投資信託会社はこれらの会社に登録を代行してもらう

上場していない企業支援のための事務管理の代行者がいなくなってしまったんですよ。奇しくも同じタイミングで支援先企業の一つにVC(ベンチャー・キャピタル)から出資を受けていたところがあり、その満期も来ていた。「VCに『上場するか買取先を探せ』と言われた」と相談を受けた結果、僕が鎌倉投信を出て新会社を作り、この会社の株式を買い取ることにしたんです。

買い取った後、代わりにこの新会社eumoを上場させる。上場してeumoが「いい会社」なら、鎌倉投信がeumoを支援する。ソーシャル・ベンチャーを直接的に支援できないのなら、間接的に支援できる仕組みを作る。eumoには事業の柱と目的が3つあるのですが、第一にこれがやりたかった。事業の目的の一つ目です。

思った以上に金融機関が助ける手段がなかった

――鎌倉投信が直接買い取ることはできなかったのですか?

最初は鎌倉投信で子会社を作り買い取ろうとしました。しかし、現行のルールでは、どうしても利益相反になってしまうんですね。もしくはメガ銀行に管理のあれこれを引き続き代行してもらえればよかった。でもメガにはそれができない。

僕らが支援するアーリー・ステージのベンチャーや小さな企業は、社債のロット(額の単位)が少ないからです。メガの場合、大きなシステムで動いていますから、社債は100億円単位からが当たり前。僕らが扱うような5000万~3億円の社債では、顧客が得る手数料より銀行に支払う手数料のほうが高くなってしまう。「じゃあ、この際、僕が会社を出てやるか」と。そういうことです。

――逆に言えば、小さな企業やソーシャル・ベンチャーには上場したくなくても上場以外に資金援助してもらう手段が、今だに金融機関にあまりないということですね?

はい。だから、今、若い起業家も仮想通貨による個人からの資金調達「ICO(イニシャル・コイン・オファリング)」*に動くわけです。上場という面倒臭いプロセスが必要ありませんから。でもまだ、このICOも過渡期であり未成熟。リスクも懸念されている。だから、「面倒くさいことは、eumo が代わりにやります」ということです。

それに今、「ソーシャル・ベンチャーを支援したい」という投資家は「上場あってこそのリターン」とか「上場による利益拡大が最重要」と考えている人ばかりではないんですよ。もちろん利益がちゃんと出ていることは重要です。一方で、“いい会社”を持続させることそれ自体が重要でリターン。そう考える人も鎌倉投信の例を考えると少なくとも個人で2万人近くいます(鎌倉投信の顧客のうち個人投資家は現在約1万9000人)。

*注)企業がトークンと呼ばれる仮想通貨をインターネット上で独自で発行し、そのトークンを取引所で流通する前に公開、銀行やVCなどではなく個人に購入してもらうことで幅広く資金調達する方法。株式を発行し購入してもらい資金調達するIPOと似た意味を持つが、株式のように優待や議決権は確立されていない。上場の必要もない。