はじめに

お金は善いモノ、悪いモノ?

――「お金に色を付ける」とのことですが、一方で、新井さんのこれまでのお金に対する持論はご著書にも書かれているように「本来、お金は無色透明・無表情。善も悪もない。ただし、付き合い方次第で善にも悪にもなる」というものです。

そうです。本来、お金自体に善いも悪いもありません。「人がそれを何に使うか」で善悪が分かれるだけです。ただし、今のお金には欠点が一つある。お金になることをビジネスといい、お金にならないことをボランティアということです。

いろいろなNPOともお付き合いしてきましたが、「ソーシャル・ビジネスやソーシャル・ベンチャーは“ビジネス”なのに、ソーシャルという名がついてボランティアっぽい?言葉として不自然だ」といつも思います。社会を支える仕事をしているのにお金にならない。あるいはお金に困って、その大事な仕事がまともにできないって単純におかしくないですか?

――確かに。お金と仕事の価値が逆になっているような気がします

なぜなら、お金がないと生活できない仕組みで経済が回ってしまっているからですよね。だから、どうしても歪む。そうではなく、「あの人、いいことやってくれているよね。ありがとう」という、その「ありがとう」で生きていければいいなと思うんです。

お金じゃなく、ツケみたいに「ありがとう」のチャージがされる仕組みができれば、みんな、お金から解放される。そうすれば、人もお金ではなく社会のために生き始める。

今のお金の定義や仕組みだと、お金に絶対的な価値があると思いこむことになり、その流れで「お金をあげるから、これをやって」とか「お金をあげるんだから、やるのは当然」ということにもなる。完全にお金に使われてしまっています。みんな、本当はもうわかっているんですよね。「何か変だ」と。

一方で、社会性や環境問題が重要だという雰囲気が世の中に流れると、とってつけたようにESGとかSDGsとか言い始める。点数表を作ってスコアリングし、企業も「うちは最高点をとった!」と点数の大小をアピールする流れになってしまう。でも、これでは、元の木阿弥。お金が目的化してしまった経緯と変わらない。今の貨幣経済の問題点を解決できないと思うんです(後編に続く)。


eumoの仮想通貨技術を利用した構想は昨今言われ始めた「エシカル金融」や「共感資本社会」「小さい経済」、また、これまである種の地域通貨がやろうとしてきたことに似たものを思い起こさせます。しかし、仮想通貨も地域通貨も問題こそあれ、ビジネスとしてに安定性やうまくいくというイメージはまだなかなか持てない人もいるのではないでしょうか。さらに後編で新井さんにお聞きします。

■人間をお金から解放するためにできること

新井和宏(あらい・かずひろ)
eumo代表取締役。1968年生まれ。東京理科大学卒。住友信託銀行(現・三井住友信託銀行)を経て、年バークレイズ・グローバル・インベスターズ(現・ブラックロック・ジャパン)入社。公的年金などを中心に運用業務に従事。2007~2008年、大病とリーマン・ショックをきっかけに金融市場のあり方に疑問を持つように。2008年11月、鎌倉投信を創業。2018年9月eumoを設立。著書に『投資は「きれいごと」で成功する』(ダイヤモンド社)、『持続可能な資本主義』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『幸せな人は「お金」と「働く」を知っている』(イーストプレス)など。

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