はじめに
金融業界は近年、ベンチャー企業の参入が相次いでいます。フィンテックによって、これまでは世の中になかったサービスが続々と生まれてきています。最近では、アリババ・グループのAlipayのようなQR決済が日本でも話題となり、メディアにも大きく取り上げられるようになりました。
MMD総研が今月発表した「2019年2月 QRコード決済サービスの利用に関する調査」によると、QR決済のシェアは、楽天ペイ(9.4%)、PayPay(8.1%)、LINE Pay(7.9%)となりました。次点として、ドコモのd払いやAmazon Payが続いています。この中でもPayPayは、これらのサービスの中で最も遅い2018年10月に参入したにも関わらず、シェア2位を獲得するほどに急成長しています。
おそらく皆さんもご想像されている通りかと思われますが、その要因はPayPayが2018年12月に実施した「100億円あげちゃうキャンペーン」にあるといえるでしょう。SNSでの拡散やマスコミの報道が相まって一躍話題になり、キャンペーンは開始からわずか10日間で終了しました。また、現在は利用条件を変えた「第2弾100億円キャンペーン」が開催されています(2019年2月28日時点)。
これらのキャンペーンのために用いられる予算は、ユーザー獲得のための広告費として考えることができます。では実際のところ、「100億円あげちゃうキャンペーン」はユーザー獲得にどれほどの効果があったのでしょうか。
100億円あげちゃうキャンペーンの効果は?
アプリの統計情報を提供するApp Annie社のデータによると、第一弾の「100億円あげちゃうキャンペーン」では、期間中のPayPayアプリダウンロード数が開催アナウンス時(2018年11月初週)と比較しておよそ46.85倍と急増していました。
PayPay社の親会社であるYahoo Japan社の2018年度第3四半期決算発表資料には、キャンペーン期間を経てPayPayの利用者数が400万ユーザーを達成したと記されています。先ほどのダウンロード数の倍率46.85倍から考えると、400万以上のユーザーのうち、ほとんどをキャンペーンで獲得したことになります。
400万ユーザーをポイント還元総額の100億円で割ると、1ユーザーあたりおよそ2,500円で獲得したことになります。本人確認が必要な金融系のアプリでは、1顧客の獲得に1万円以上かけることも珍しくありません。さらに、キャンペーン終了後もユーザーは継続して増加しています。このような波及効果も考えると、比較的安価でユーザーを獲得できていることになります。
ユーザーや知名度の獲得という側面でいえば、100億円あげちゃうキャンペーンの効果は絶大なものであったといえるでしょう。
キャンペーン終了後は使われるのか
しかし、キャンペーン終了後にユーザーがアプリの利用をやめてしまうという懸念もないわけではありません。アプリやサービスが本質的に顧客の利便性向上に役立つようなものでなければ、継続的な利用はみられないでしょう。キャンペーン終了後も継続して利用されなければ、今回のポイント還元に使われた100億円も、単なる一過性のバラマキとして終わってしまいます。
では、実際にPayPayのユーザーは定着をしているのでしょうか。図2は、ダウンロードから7日経過後もアプリを継続して利用しているユーザーの比率(ユーザー維持率)のグラフです。
他社QR決済アプリのユーザー維持率は足元で15~18%程度でした。一方でPayPayのユーザー維持率は23%程度と、比較的多くのユーザーが継続的に利用していることが伺えます。
一般的には、急激にユーザーが増加するとユーザー維持率が大きく下がってしまいがちです。興味本位でインストールする人がすぐに利用を止めてしまうからです。しかし、PayPayの維持率は急激なユーザー増加を経ても3分の2程度にとどまっており、それほど激しくありません。これには、ポイントが実際に還元されるまでに1ヶ月程度のタイムラグがあるという要因が背景にあると考えられます。
さらに、現在も第二弾のキャンペーンが実施されていることから、ポイント還元待ちのユーザーが維持率を下支えしていると思われます。このように考えると、サービス自体の真価は還元ポイントがあらかた消費されたことから問われてくるといえるでしょう。
ちなみに、経済産業省の「キャッシュレス・ビジョン」では、2025年までにキャッシュレス決済比率を現状の2割程度の水準から、未来投資戦略 2017における設定値の4割にする目標が掲げられています。政府では、消費税の増税とあわせて、キャッシュレス決済にポイントを付与する政策を検討しています。
今後は官民一体でキャッシュレス決済を普及させていくという風潮が生まれると期待されます。そのため、PayPayが引き続き大規模なマーケティングによってシェアを獲得していけば、継続して利用されていくアプリとなるかもしれません。
PayPayは、ユーザーに大きな金銭的インセンティブを与えることによって、自社アプリの使いやすさだけでなく、QR決済自体の利便性のアピールにも成功したといえるでしょう。