はじめに

レストランを予約していたけれど、風邪で当日行けなくなった。わざわざ連絡するのはめんどくさいから「ま、いっか」。念のためにコース料理で2店舗予約していた忘年会。こっちのお店には行かないけれど忙しいから連絡しなくても「ま、いっか」。

そんな軽い気持ちで行われているであろう“無断キャンセル”が、飲食業界では大問題になっています。準備した食材費、人件費のロスだけではなく、予約を取れなかった客への機会損失など、飲食店側への損害は甚大。そんなレストランを救うべく、全国初の試みで話題を呼んでいるサービスがあります。


「No Show」による損失が拡大

レストランも、旅行も、ヘアサロンもネット予約が当たり前になった昨今。いつでも簡単にお店を抑えられることでとても便利になりましたが、反面、気軽な気持ちでキャンセルする人が増えているといいます。

予約時間になっても客が姿を現さない――。「No Show」と呼ばれる予約当日の無断キャンセルに、飲食店はずっと頭を悩ませてきました。食材の仕入れや料理の仕込み、テーブルの確保など、予約人数が増えるほど、キャンセルによる飲食店側の損失は大きくなります。

飲食店向け予約管理・顧客台帳サービスを提供する株式会社トレタが過去に行った調査によると、2014年10月~翌5月までに同社のシステムに蓄積された160万件の予約のうち、無断キャンセルはその0.6%にあたる9,600件におよびます。

キャンセル1回につき「お見舞い金1万円」

無断キャンセルに怯える飲食店を救うために、2月9日からトレタがスタートしたのが「お見舞い金サービス」という大胆な取り組みです。

同社は以前から、飲食店に対するキャンセル防止策として、利用者が予約と同時にクレジットカードで前受金を支払うデポジット決済サービス「トレタペイメント」を展開していました。

今回、新たに導入されたのは、このトレタペイメントを利用している飲食店で、キャンセル料を10,000円以上に設定した予約が当日キャンセルになった場合に、同社からお見舞い金が支払われるというシステムです。

つまり無断キャンセルになった場合には、飲食店には利用者からのデポジットと同社からのお見舞い金の両方が支給されるのです。

お見舞い金は1回のキャンセルにつき定額10,000円。1年間で3回まで申請できるとのこと。

気になるこのお見舞い金は、どこから出ているのでしょうか?

同社の広報担当者は「当社の運営費から捻出しています。当日に無断キャンセルされたお店側は金銭的な損失だけではなく、心の傷も深くおっていらっしゃいますから」と、寛大な回答。

また、このサービスを利用しているのは、「キャンセル料が10,000円以上という設定のため、基本的にコース料理が中心になる高単価なお店が多い」(同社広報担当者)そうです。

利用者側の無断キャンセルだけでなく、火災や水漏れ等により店側が被害を被り、1日以上休業することで予約の取消を行った場合にも、このお見舞い金サービスが適応されます。飲食店にとっては、なんとも頼りになるサービスです。

トレタ「“飲食店の味方”として」

また、トレタが老舗名門ホテルやミシュラン常連のレストランをはじめ、多くの飲食店から支持されているのは、お見舞い金サービスが斬新だからだけではなさそうです。

同社のサービスを使用すると、系列店の空席情報や顧客情報を店舗間で共有できたり、1度来店すると顧客情報が登録され、リピートの有無や、前回頼んだメニューの内容まで蓄積することができます。

こうした生産性の高いITサービスを提供していることが評価され、2月には「IT導入支援事業者」に認定されました。飲食店側は同社のサービスを2店舗以上導入すると、国からIT導入補助金を受け取ることができるのです。こうした背景が、飲食店のトレタ導入をさらにあと押ししています。

ネット予約によって「海外からの利用者も簡単に予約できるようになり、インバウンド需要の対応にも効果を感じている」という導入店の喜ばしい声がある一方、手軽さゆえに当日の無断キャンセルが安易に行われている側面も否定できません。

問われているのは利用者のモラルです。このお見舞い金サービスが必要なくなる日が訪れることが最善です。同社は、「“飲食店の味方”として、今後も導入店舗の安定した経営を支えるさまざまなサービスを提供していく」としています。

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