はじめに
以前の記事「日経平均株価が今年前半にも2万2000円台に回復し得る理由」で、今年の投資戦略として、前半はこれまでの売られ過ぎからの回復狙い(リバーサル戦略)、その後は成長機会を享受する投資戦略として新興国市場に期待、ということをお伝えしました。
そこで今回は、安定した経済成長が期待される先進国に対して、高い成長率が期待される新興国について掘り下げてみようと思います。
2020年に再加速する見込みの新興国経済
IMF(国際通貨基金)による最新の世界経済見通しによると、世界経済は2019年に減速した後、2020年には再び加速すると予測されています。内訳をみると、先進国の鈍化傾向は続きますが、新興国は2019年に鈍化した後、2020年には加速すると予測されており、新興国が世界経済の成長のけん引役であることがわかります。(下図)。
新興国は、基本的にインフラ整備が不十分なため、政府や民間の投資で大きな成長が実現しやすいことや、昨年から今年にかけての景気刺激策や構造改革の効果が、今後徐々に表れるとみられることが背景にあると思います。つまり、先進国とのサイクルにずれが出てくる、ということです。
新興国の中で経済規模が大きな国をみると、中国は成長率の加速が予測されていないことから(それでも十分高い伸びですが)、インドがけん引するといえそうです。
中国とインドが重要な役割に
中国の成長率低下の要因は、7割程度がデレバレッジ(負債圧縮)政策の継続で、3割程度が貿易摩擦とセンチメント(投資家心理)悪化だと思います。しかし、政府は成長率そのものから質の高い発展を重視するよう舵を切っており、先進国よりも相対的に高い成長は持続するとみています。
中でも注目は、国営企業の改革です。優良な国営企業は世界的競争に勝つために大規模化を続ける一方で、弱い企業は淘汰されていくでしょう。この時、市場・価格メカニズムをさらに取り入れる改革が期待されるのです。
インドは、これまで打ち出した政策である、GST(物品・サービス税、消費税のような間接税)が上手く機能して政府の効率が高まり、会社更生法のスタートによる不良債権処理の進展や新規の設備投資の促進が期待されるでしょう。
また、2019年には総選挙を控えており、さらなる景気対策を打ち出すとみられますが、それ以上に銀行システムの改革など、これまでの改革の成果を企業の設備投資などにつなげていくことが期待されます。年初来の為替や株価指数の値動きをみても、中国よりも早く回復しています。(下図)
新興国市場への資金流入は継続
一般に、米国の金利上昇とともに新興国への投資資金が逃避するのではないか、との懸念が高まり、資金流出するといわれます。しかし、一概にそうはいえないようです。過去の新興国に投資する世界の投資信託の資金流出入額の推移と主な事象を重ねてみると、金利上昇でも資金流入するケースがありました。
バーナンキ・ショックといわれた、当時のFRB(米連邦準備制度理事会)議長が議会証言で量的緩和の縮小可能性を示唆したとたんに金利が上昇した時期には資金が流出しましたが、リーマン・ショック前の好景気で事前に利上げが示唆された時期や、ここ数年の緩やかな利上げプロセスがアナウンスされた時期には資金が流入したのです。
2018年9月以降の金利上昇時に、景気の冷やし過ぎを懸念して株式・債券から資金が流出しましたが、12月頃からは債券への資金流入が始まり、2019年1月にはパウエルFRB議長の利上げに慎重な発言を通じて金利が低下基調になり始めてから、株式・債券ともに大幅な資金流入が起こり、その後も流入が続いています(2019年3月13日時点)。
足元、米利上げが遠のくとの観測が高まる中、高い成長率が期待される新興国は、投資家にとって魅力的な投資機会を提供してくれるとみています。
<文:チーフ・ストラテジスト 神山直樹 写真:代表撮影/ロイター/アフロ>