はじめに
ドル円相場と日米金利差の相関が高いことはよく知られていますが、このところ必ずしもそうとは言えません。日米金利差とは関係なく、ドルが底堅い印象です。逆に言えば、円が買われにくくなっているということです。その理由を探ってみたいと思います。
主要国の中銀が相次いでハト派にシフト
今年に入り、主要国の中央銀行が次々に金融政策姿勢をハト派に変化させています。まず口火を切ったのは米連邦準備制度理事会(FRB)です。1月29、30日の連邦公開市場委員会(FOMC)において、今後の方針を示す文言(=“一段の漸進的な利上げ”)を丸ごと削除したほか、保有資産縮小の柔軟化を示唆したことはFRBの変心をかなり印象づけたと言えそうです。
一方、欧州中銀(ECB)は3月7日の理事会で、年内の利上げ断念と銀行への新たな資金供給策(TLTRO3)の導入を決定しました。その他、豪州やカナダでも中銀が金融政策の軸足を利上げ方向から中立にシフトさせたほか、日銀は2月下旬に黒田総裁が朝日新聞とのインタビューの中で、追加緩和の可能性に言及しています。
主要国中銀の“ハト派ドミノ”に象徴されるように、世界経済の現状が厳しいのは確かでしょう。経済協力開発機構(OECD)が毎月公表している景気先行指数はいまだ下げ止まる様子が窺えません(下図)。
また、同じくOECDは3月6日に最新の経済見通しを公表し、今年の世界のGDP成長率予測を昨年11月時点の+3.5%から+3.3%へ0.2ポイント切り下げました。下方修正の理由については、「高い政策不透明感」や「進行中の貿易摩擦」などを挙げていますが、仮にOECDが指摘する逆風が止んだとしても、各中銀のハト派姿勢が急変することはないでしょう。
こうした状況下では日銀の立場が非常に難しいと言えます。これ以上の金融緩和余地はないと市場に見透かれてしまえば、円高リスクが高まり、2%の物価安定目標の達成がより困難になります。
ちなみに、前述の朝日新聞とのインタビューで黒田総裁は金融緩和を強化する手段として4つのオプションを列挙しています。具体的には(1)短期の政策金利「マイナス0.1%」の引き下げ、(2)長期金利の操作目標「ゼロ%程度」の引き下げ、(3)国債その他資産の買入拡大、(4)マネタリーベースの増加テンポの加速です。いずれも効果以上に副作用が懸念され、実際に実行に移せるかどうかは甚だ疑問と言えます。