はじめに
イギリスの欧州連合(EU)離脱、いわゆる「ブレグジット」をめぐる同国議会でのドタバタ劇が続いています。
日本で暮らしていると、なぜここまで状況が混沌としているのか、理解しにくい部分があります。しかし一方で、ブレグジットの混迷は日本株市場の上値を抑える一因ともなっており、普段イギリスと縁のない生活を送っている人にとっても完全に他人事というわけではありません。
いったいなぜ、こんなにドタバタが続いているのか。最新情勢の分析と併せて、混迷の背景を解説したいと思います。
首相の捨て身策も不発に終わる
まずは、ブレグジットをめぐる足元の状況を整理してみましょう。
当初予定されていた3月29日午後11時という離脱の期日は延期が決定。27日にはテリーザ・メイ首相が、イギリスとEUの間で合意した離脱協定案が可決されれば退陣する考えを、自らが率いる与党・保守党の会合で表明。自分の首と引き換えにEUとの「合意なき離脱」を回避しようとの賭けに出ました。
しかし、辞任する意向を明らかにした後に議会で行われた、メイ首相の離脱案に代わる案を探るための投票では、「関税同盟への恒久的な残留」や「再国民投票の実施」など、提案された8つの案がいずれも過半数を集めることができませんでした。
離脱に向けた具体案は決まらないままで、英BBC(英国放送協会)も「ブレグジット・デッドロック(ブレグジットは行き詰まり)」などと報じています。
イギリスの迷走に対してEU側は、4月12日までに具体的な離脱計画を示すよう決断を求めています。メイ首相は3月29日に英議会で再び離脱案の採決を行う方針ですが、承認されるメドは立っていません。「合意なき離脱」の火種がくすぶり続けています。
EU側も「最悪のシナリオ」は避けたいところ。「ブレグジットの選択を行うのは英国。(EU本部のある)ブリュッセルのメンバーが離脱を決めるのではない」とミシェル・バルニエ首席交渉官がツイートするなど、幹部はイライラを募らせています。
地域政党がカギを握る理由
メイ首相が辞任のカードを切ったのは、離脱案に対して強硬に反対している与党内の議員を翻意させようとの狙いがありました。
実際に強硬派の筆頭と目されているボリス・ジョンソン前外相は、これまでの離脱案反対の立場を変えて支持に回った、とイギリスのメディアは伝えています。ただ、反対していたすべての議員を翻意させるには至っていません。
議会での承認を取り付ける際にカギを握るとみられるのが、保守党と閣外協力する北アイルランドの地域政党、民主統一党(DUP)の動向です。
保守党は2017年6月の総選挙での獲得議席が下院定数650議席のうち318にとどまり、単独過半数を確保することができませんでした。このため、10議席を有するDUPと協力することが合意し、政権を維持しました。
DUPは現在、EUと合意した離脱案の採決に反対する考えを明らかにしています。DUPの賛成を取り付けることができなかった場合、離脱案の可決には与党の強硬派議員を翻意させるだけでなく、同じく離脱案に反対する野党・労働党議員の一部の切り崩しを図る必要があるわけです。
(写真:ロイター/アフロ)