はじめに
書店や新聞広告で、『サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい』(三戸政和著/講談社)というタイトルに見覚えのある会社員は多いと思います。シリーズ累計15万部を突破し、話題になっている書籍です。
副業が解禁され、会社員が色々なことにチャレンジするようになると、「自分の会社を持ってみたい」「一国一城の主になってみたい」という気持ちが強くなってくることもあるでしょう。そんなとき、「会社を買う」ことは自分の会社を持つ選択肢のひとつになります。
では、会社員が会社を買うとはどういうことでしょうか? そんなに簡単に会社を買えるものなのでしょうか?
今回は、会社員が会社を買う場合の上記のような疑問にお答えします。なお、ここでいう会社は断りのない限り、組織形態として最も多い株式会社を前提としてお話をします。
会社を買うのは難しいことではない?
会社を買うとは、一体どういうことでしょうか?
株式会社は、出資されたお金を元手として、様々な事業を行っていきます。お金を出資した人は、その見返りとして株式をもらうことになります。株式を持っている人は株主です。株主は、会社の運営方針等を決める議決権を持つことができます。議決権を多く持っていればいるほど、会社運営をほしいままにすることができるのです。
会社員である一個人が非上場会社を買うということは、相応のお金を払って、買いたい会社の株式を取得することを意味します。実はこれは、それほど難しいことではありません。買いたい会社の株主との間で株式譲渡の合意が成立すれば、会社を買うことができるのです(株券発行会社の場合は、株券の受渡しが必要です)。会社の株式を100%持つことができれば、会社の議決権を行使して、会社の経営権を握ることができます。
もちろん、その際には会社の承認を受ける必要があります。非上場会社は基本的に株式を譲渡する場合、会社にとって不都合な人の手に株式が渡ってしまわないように、会社の承認を得なければならないのです。承認が下りたら、あとはお互いが決めた払込期日までに買収の対価であるお金を振り込むだけです。
会社を買うときに気を付ける「5つのポイント」
会社を買うことはそれほど難しくはないと言いました。ただし、注意点がいくつかあります。
1.簿外債務がないか
たとえば、あなたが知り合いの会社を500万円支払って買ったとします。会社には1000万円の資産がありますが、一方で借金が600万円あります。差引きで考えると400万円ですが、あなたはこの会社の将来性を見込んでいるので、500万円という価格はお得だと判断しました。
しかし、後日、この会社には元従業員への給料の未払いが400万円あったことが発覚しました。
会社を買ったときに数字(貸借対照表)で確認できなかった債務を「簿外債務(=帳簿外の債務)」といいます。すでに会社の株主になったり、役員になったりしていたら、会社としてこの簿外債務に対応する責任が生じるのです。
こんなことがないように、会社を買う場合には、簿外債務がないか十分に注意する必要があります。お買い得だと思った会社が実は多額の借金を負っていて、その肩代わりをする羽目になったということになれば、目も当てられません。たとえ知り合いから会社を買う場合でも、慎重に判断すべきです。できれば、会社の価値について第三者機関からのアドバイスをもらうようにしましょう。
2.会社法上の手続きが必要
会社に関して何かアクションを行う場合、会社法という法律に基づく手続きが必要になってきます。たとえば、株式譲渡に承認が必要であるということも、会社法に定められています。
また、自らが代表取締役などの役員に就任する場合は、役員としての登記が必要になります。役員になるには株主総会や取締役会の決議が必要なので、会社法が適用されます。
法律を自分だけで理解するのは難しいので、できれば専門家のアドバイスをもらった方が無難です。
3.代表取締役になってもよいか本業の会社に確認
会社員が会社を買うわけですから、本業の会社の規則に従う必要があると思います。代表権を持たなければ役員であることはOK、代表取締役になってもよいが役員報酬は受け取ってはいけないなど、会社によって様々な決まりがあります。本業の会社員を続けたまま会社も経営したい場合は、会社を買う前に必ず確認するようにしましょう。
4.会社買収後、経営資源の流出がないか
会社を買う目的の一つに、事業運営にとって有能な人材の確保や重要な取引先の獲得などがあります。会社を買ったものの、経営者交代に伴って、その有能な人材が退職、重要な取引先が取引停止を申し出てきたのでは当初の目的を果たすことができません。このようなことのないように、契約時に約束事として規定を設けるなどする必要があります。
5.法人税の申告が必要
個人には所得税や住民税が課されますが、法人には法人税等が課されます。利益が出ていなくても、基本的には確定申告が必要です。なお、会社のために使った経費は法人の経費になります。法人の経費と会社員の経費とを合理的に説明できるように区別しておく必要があります。