4月5日に発表された米国の3月雇用統計は、非農業部門就業者数(NFP)が前月比+19.6万人と、市場予想の中央値である同+17.7万人に対して強めの内容となりました。しかし、平均時給が同+0.1%(予想:同+0.3%)、前年比+3.2%(予想:同+3.4%)となったことで、米金利が低下した結果、ドル円相場は小動きでした。

これまでに発表されていた中国の3月製造業購買担当者指数(PMI)の改善と、米中通商交渉に対する楽観的な見通しを受けて、巷に流行していた2019年のネガティブ見通しはフェードアウトしつつあります。前回記事「弱い米2月雇用統計でも、今が押し目買いのチャンスなワケ」で筆者が触れた「ドル円は押し目買いのチャンス」というスタンスは継続すべきと判断しています。


中国経済に広がる底打ち感

ドル円相場という本題に入る前に、世界経済に大きな影響を及ぼす中国の現状について、整理しておきたいと思います。

3月31日から4月3日にかけて発表された、中国の国家統計局発表のPMIと財新伝媒・マークイット・エコノミクス発表のPMIは、どちらも現地の景況感の底打ちを感じさせる内容となりました。前回記事で紹介した「中国の需要が“かなり力強い”」という米キャタピラーの発言が反映された内容となりました。

4月8日現在、米中通商交渉は継続中で、昨年から筆者が予想するトランプ関税の縮小・撤廃は先延ばしになっていますが、年初の中国経済崩壊を煽る巷の見通しは時期尚早であったといってもいいでしょう。関税の縮小・撤廃が実施されれば、中国の経済指標の底打ち感がさらに広がると思います。

こうした前提を踏まえて、話を米国の3月雇用統計が発表された4月5日に戻しましょう。筆者は、米雇用統計と共に、発表直後のドル円の方向性もリアルタイムで予想しています。今回は「1ドル112円20~30銭をターゲット」としていましたが、実際のファーストリアクションはドル売り反応となりました。これはいったいなぜなのでしょうか。

ドル円相場がドル売り→ドル買いに動いたワケ

筆者が見ている情報ベンダーのヘッドラインは、今回は平均時給が先に出てきました。その結果、人間以上にすばやく動ける人工知能は、最初に出てきた「予想よりも低い平均時給」に「ドル売り・米金利低下」で反応し、2番目のヘッドラインとなった「強めのNFP」ですばやくドルを買い戻したのではないか、と想像しています。

いずれにしても、ドル円は1ドル111円70銭近辺を中心に売買交錯した相場にとどまりました。一方、米国の株式指数は「強いNFP」と「低金利」を好感し、上昇しました。

なお、米国の3月の平均時給上昇率は前月比+0.1%(予想同+0.3%)、前年比+3.2%(予想同+3.4%)と、予想より低めの内容となりました。パートタイマーやアルバイトといった低所得者層と考えられる人たちが仕事に戻ってきたことで、米国の全雇用者の時給における月給制や年俸制の比率が低下。その結果、平均時給が低めに出る傾向があると考えられます。

3月期決算の日本企業の「益出し・損切り・合わせ切り」の季節も終わり、慌てて売らなければいけない玉もなくなっていると思われ、ドル円の上値は軽くなっています。一方で、日本企業の海外企業に対するM&A絡みの未完了のフローがドル円の下値を支えていくと筆者は予想しています。

4月15~16日に予定されている日米貿易交渉が近づくにつれて、「リスクオフの円高」発言がコメンテーターから相次いで出てくることが予想されます。しかし、こうした発言はドル円の押し目買いの好機になると考えています。

4月後半以降はどう動くのか

それでは、さらにその先の状況については、どのように見通せばよいでしょうか。

米国の3月雇用統計が発表される前、筆者は「3月NFPは前月比+10万~15万人で、2月分(同+2万人)は同+10万人超に上方修正される」と予想していました。前回記事で触れた1~2月の天候要因による一時的な悪影響がなくなる、と見ていたからです。

NFP

この3月の数字は追って修正される見込みですが、それが上方修正なのか、下方修正なのか、予想するのが非常に悩ましい状況です。

3月初め、米中西部で爆弾低気圧が猛威を振るいました。その後、中旬にかけて暖かい雨の日が続き、河川の水位が急上昇しました。これに加えて、大規模な「氷の津波」(アイスジャム)が発生し、スペンサー・ダムを破壊。米中西部は大洪水に見舞われました。

ネブラスカ州、アイオワ州、ウィスコンシン州の3州と、140を超える市と郡で非常事態宣言が出されました。ネブラスカ州の主要産業は農業で、アイオワ州とウィスコンシン州においても農業は主要産業の一部になっています。したがって、「非農業部門」就業者数にどのような影響が出てくるのか、予想するのが非常に難しいです。

一方、雇用統計を予想するうえで筆者が重要視している米国の失業保険継続受給者数(週次)は、昨年10月ごろから上昇傾向にありました。しかし、雇用統計の調査週(12日を含む週)でピークアウトした兆しがあり、4月の雇用統計が発表される5月3日にNFPが上方修正される可能性があります。

<文:チーフ為替ストラテジスト 今泉光雄>