はじめに

たくあん食べ比べ、みりんの飲み方、企業博物館めぐり――。「マツコの知らない世界」「タモリ倶楽部」「安住紳一郎の日曜天国」といったメディアで取り上げられるようなニッチな分野に、飛び抜けた情熱を燃やす人々の集うイベントがあります。その名は「おもしろ同人誌バザール」。

同人誌即売会は「コミックマーケット(コミケ)」が国内最大規模で有名ですが、このイベントは「情報系同人誌」に特化しているのが特徴。どのような盛り上がりをみせているのか、4月6日に東京・六本木で開催された「おもしろ同人誌バザール7」へ行って確かめてきました。


作者が伝えたい「情報」をまとめた同人誌

会場は「ベルサール六本木」の地下イベントホール(703平方メートル)。この日はお花見シーズン真っただ中の土曜日でしたが、家族連れなど多数の男女が続々と訪れ、主催者の発表によると来場者数は1,300人に上りました。

熱気に満ちた会場に、個人やサークル、企業など190の出展者が、長机に個性的な同人誌の数々を並べています。あちらに「サザエさんじゃんけん研究本」があると思えば、こちらには「タピオカの食べ歩き本」があって振れ幅が大きい。

そもそも「情報系同人誌」とはどのようなものを指すのでしょう。公式パンフレットによると「同人誌の中でも『物語』を中心としたコミックや小説ではなく、作者が伝えたい『情報』を中心にまとめたものと定義。あまり厳密な定義はしておらず、イメージとして、商業誌でいえば『ムック』にあたるような、あるテーマを中心に情報を一冊にまとめたもの」とされています。表現方法は文章、写真、漫画、イラストなど、何でもありです。

ガーナからカカオの実を輸入する苦労

『ガーナで収穫したカカオ豆でチョコレートを作ってみた』。こんな興味深いタイトルの同人誌を会場で発見しました。カカオ豆の生産量世界2位のガーナを訪れ、現地で収穫したカカオを実ごと日本に持ち帰り、チョコレートを作るまでを記録した内容です。

誌面
自家製チョコレートができるまでの工程を詳細に掲載

著者の「播磨屋徳兵衛」さんに制作の経緯を聞くと、修士論文の調査でガーナに約1ヵ月滞在した空き時間を利用したそう。一番苦労したのは、カカオの実を輸入する過程だったといいます。

「カカオの輸入はきちんとした手順を踏まないと検疫法にひっかかってしまう。ガーナと日本での検査が二重で必要になります。しかもガーナのどこで検査を受けられるかわからない。運が良いことに現地滞在中に空港の新ターミナルが完成したようで、植物検疫のカウンターがあるのを帰国時に発見しました」

カカオ豆は発酵させる工程が必要ですが、ネットに情報がほとんどなく、大学図書館で論文を探したそう。「カカオ豆を砕いてネットに載せている人はいましたが、発酵方法についてはここまで情報がないとは」と振り返ります。完成したチョコレートの味について聞くと、市販のものより強くカカオの香りがして、ほんのりと発酵臭もあったといいます。

ちなみに今回の同人誌の印刷代は、500部発行して22万3,400円。これまでの即売会(売価700円)や委託販売(卸値630円)で293冊をさばきましたが、売上は20万1,740円と現状は元が取れていない状態です。2年ほどかけてすべて売り切る予定ですが、即売会への参加費用などを除くと、想定する利益は9万5,400円ほど。

播磨屋さん
『ガーナで収穫したカカオ豆でチョコレートを作ってみた』を制作した播磨屋さん

「一見多そうですが、ガーナまでの渡航費(15万円程度)を勘案すると、全部売れても赤字になります。そのため、私にとって同人活動は利益を収入にするのではなく、あくまで次の同人誌のための旅行費用のためという感じです」(播磨屋さん)

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