はじめに

ミャンマー人が観光バスでやってくる

実は、この店で一番多いのがミャンマー人観光客。ミャンマーでは和柄の布は「キモノ」と呼ばれて大変人気があり、高級品扱いだそうです。かつて、ミャンマーに和柄の布を持ち込んだ人がミハマクロスのお客さんだった経緯があり、店にはミャンマー人ツアーの観光バスが乗りつけることもあるそうです。

続いて多いのは、タイやマレーシアなど東南アジアの観光客で、色鮮やかな和柄が好まれるとのこと。欧米からはフランス人観光客が多く、こちらには藍染風のシックな柄が人気で、浴衣やドレスに仕立てる人が多いそうです。

店内
店内には色とりどりの布地が売られている

アフリカのウガンダから来たという女性は、藍染風の竹柄の布を4メートル購入。「たくさん柄があって選ぶのがとても難しいわ!これで夏用のドレスを作るつもり」と話していました。

ミハマクロスの浜口良行社長によると、店には多い日で70~80人の外国人が訪れ、1日600枚の生地が売れる日もあるそうです。1人で20~30枚を買い上げる人もおり、「土日は忙しくて休む暇もない。在庫が全部なくなってしまう」とうれしい悲鳴を上げます。

繊維街の観光地化に区も後押し

浜口社長は英語が話せませんが、身振り手振りと簡単な単語で各国の客とやり取りをします。せめて挨拶とお礼だけは伝えようと、約20ヵ国語のあいさつを手書きしたメモを、レジに貼り付けてありました。

浜口社長
ミハマクロスの浜口社長

かつては1日の店頭売り上げが5万~6万円ほどの時期もあり、「とても経営が成り立たなかった」と言います。数年前から外国人のニーズをとらえた品ぞろえに変え、今は多い日で50万円ほどの売り上げがあります。

浜口社長は「この道に入って60年以上。生地はどんどん売れなくなり、都内の大型の生地店の多くがつぶれた。もうだめかと思っていたが、こんな時代が来るとは……。日本の和柄を世界に広めたい」と話します。

このようなインバウンド効果を受け、東京日暮里繊維卸協同組合は英語版「にっぽり繊維街まっぷ」を作成。荒川区役所も日暮里駅前の観光案内所に、英語と中国語が話せるスタッフを配置し、外国人観光客向けのイベントも企画しています。

同区観光振興課の職員は「日本人はなかなか気づかないが、わかりやすい観光地でなくても、何か特化したものがあれば観光ニーズはある」と張り切ります。

日暮里繊維街は手芸好きの間では知られていましたが、初めて聞いたという人も多いのではないでしょうか。国産の繊細な柄の布が相場より安く手に入り、夏に向けて浴衣用の布を探すのにピッタリ。最近流行っているレザークラフト(革細工)の材料や道具をそろえることもできます。連休中にふらりと遊びに行ってみては、いかがでしょうか。

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