はじめに
脱税額の規模はどれくらい?その使い道と隠し場所
国税庁は、毎年、脱税案件についてどのような告発を行ったのかを公表しています。同庁の「平成29年度査察の状況(平成30年6月公表)」には、脱税額や告発件数などが記載されています。
平成29年度に処理された査察事案の脱税額は、総額で135億円(うち告発分は100億円)にのぼります。告発事案1件あたりの脱税額は、8900万円。1件あたりの税額が8900万円ですから、取引の規模は相当大きなものであることがわかるかと思います。
脱税は犯罪ですから、裁判にかけられ実刑判決も下されます。最も重いものは、懲役7年6ヵ月です。脱税によって得られた不正資金の多くは、現預金や有価証券として留保されており、そのほか、居宅や太陽光発電、高級外車、高級腕時計の取得費用、特殊関係人への援助資金、ギャンブル等の遊興費などに充てられていた事例もみられたと報告されています。
また、脱税により不正に得た現金の隠し場所として、具体的に次の場所が挙げられています。
・居宅物置の床下収納に設置した金庫の中
・居宅階段下のカバーに覆われた金庫の中
・居宅寝室クローゼットの中の靴箱、およびトランクの中
こういったところにまで調査が及ぶということです。
脱税の告発が多い業種とは?
脱税の件数で最も多いのは、主に会社に対して課される法人税、次に消費税、個人に課される所得税と続きます。税務調査は、会社だけでなく、個人も対象になるのです。
次の表は、告発の多かった業種の一覧です。年度によって傾向は違いますが、建設業と不動産業が告発の上位にあることがわかります。
国税庁「平成29年度査察の状況(平成30年6月公表)」より
次の表は、査察事案で検察が裁判にかけるべきと判断したものについて、地方裁判所にかけられた場合の有罪率です。有罪率はここ3年ずっと100%となっています。つまり、検察が告訴に踏み切った場合は必ず有罪になっているということです。逆に言えば、強制調査が行われるのは、それくらい確実な場合だ、ということになります。
国税庁「平成29年度査察の状況(平成30年6月公表)」より
個人の無申告者に対しても厳しく調査
国税庁は情報収集のうえ、うっかり申告をしていなかった場合(無申告)の調査も積極的に行っています。同庁の「無申告者に対する調査状況」によると、個人にかけられる所得税の無申告者への調査件数は、平成29年度では7779件となっています。
1件あたりの追徴税額は、267万円。脱税案件が、いかに税額が大きいかご理解いただけるかと思います。なお、故意に(わざと)無申告だった場合は、査察案件として調査される可能性がある点に留意が必要です。
脱税したら「追加納税のペナルティ」
脱税行為があった場合、刑事罰が科されなかったとしても、国税庁には、本来納めるべきだった税金とは別に、ペナルティとして追加で税金を納める必要があります。
追加の税金とは、1.重加算税 と、2.延滞税 です。
1.重加算税は、仮想隠ぺいがあった場合、つまり、脱税の意図があったような悪質なケースにかけられる最も重いペナルティの税金です。税率は、本来納めるべき税額の35%~50%です。
2.延滞税は、本来納めるべき税金を納めていなかった間の利息のイメージで、期間に応じてかかってくる税金です。年度によって税率は異なりますが、たとえば、平成30年1月1日から平成31年(2019年)12月31日までの期間だと、本来の納付期限から2ヵ月以内は、年2.6%、それ以後は年8.9%です。
脱税した場合の負担の大きさがわかるかと思います。青汁王子や銀座の高級クラブのママは、脱税した税金のほかに、これらの税金も合わせて納税しなければならないのです。
次回は、国税局や税務署は不正をどうやって見抜いているのかについて解説していきたいと思います。