はじめに
国別で見ると日本への影響度は?
中長期的に米中間の覇権争いが続いた場合の、各国・産業への影響をみてみましょう。
まず、最も悪影響が大きい産業は中国製造業になります。中国の米国向け輸出割合(OECD<経済協力開発機構>データ、2015年)は全生産の3.8%。このうち製造業生産は6.7%で、品目別ではコンピュータ・電子機器が12%、繊維が13%に上昇します。
国別では、各国の産業の付加価値生産額において、中国での生産向けに輸出し、最終的に米国に輸出される製品の割合は、台湾(1.6%)、韓国(0.78%)、マレーシア(0.73%)、シンガポール(0.73%)が高めですが、日本(0.19%)は比較的低くなっています。
中国の製造業に対する打撃は、短期的にはサプライチェーンに組み込まれるアジアの電子機器産業に広がっていくでしょう。各国の電子機器産業の付加価値生産額において、中国での生産向けに輸出し最終的に米国に輸出される製品の割合は、台湾(5.8%)、韓国(4.4%)、フィリピン(4.2%)で高めとなります。
一方、米国の全生産に占める対中輸出の割合は1.2%と小さいですが、農業生産の5.1%、製造業生産の3.3%が中国向けです。コンピュータ・電子機器(同5.1%)、輸送機器(同4.5%)、機械(同4.4%)なども高めとなっています。
セクター別の影響度は?
日本への影響の内訳を見ますと、電子機器(1.34%)の割合が高く、金属(0.62%)、化学製品(0.56%)、機械(0.35%)も比較的高いです(OECDデータ、2015年)。
法人企業統計を基に試算すると、中国から米国へ輸出する製品のうち、日本での付加価値生産額は2017年度に360億ドル(3兆9,600億円)程度、税負担額は9,600億円となり、日本企業の経常利益(除く金融、保険)(83兆5,543億円)に対して▲1.1%の下押し要因となります。このうち電気機械と情報通信機械は、経常利益(4兆6,163億円)に対して▲13.6%の下押しと試算されます。
こうした中で、目先は、米中貿易摩擦の影響を受けにくい内需関連や、中長期的な成長が見込まれるソフトウェア関連、企業独自の成長力が注目される企業などへの投資が推奨されます。
一方、アジア市場では中長期的に輸出代替効果が期待されます。アジア開発銀行(ADB)は、サプライチェーンの変化を考慮しつつ、米中が相互に全輸入品に25%の関税を賦課した場合、アジア新興国の実質GDPは▲0.09%の押し下げとなりますが、米国向け輸出代替が出た場合には+0.22%とプラスへ転じると試算しています。
ベトナムや台湾、タイ、マレーシアなどで代替需要が高まる見通しです。アジア全体的に、電子・電子部品の生産が中国を代替するほか、北アジアでは金属・鉄鋼や機械、東南アジアでは繊維や石油化学、金融、卸売へのプラス効果が予想されています。
今後の注目点はここだ
生産拠点を再編する動きはすでに昨夏以降、出始めています。台湾では中国からの生産拠点移管企業への投資優遇策を背景に国内投資計画が出ているほか、石化製品や繊維などはベトナムやインドネシア、バングラディシュなどでの生産へ切り替えました。
日本でも「第4弾」に備えて生産シフトを発表する企業が現れだしています。関税の悪影響にすばやく対応し、被害を最小にとどめる動きを見せる企業に注目したいです。
中国も指をくわえて見ているわけではありません。今後は景気対策効果も期待されます。5月6日には、中小企業向けの預金準備率の引き下げ(3段階にわたって10~11.5%を8%へ)を予想よりも早い段階で打ち出しており、当局は中小企業の資金調達環境の整備に余念がありません。
3月の全国人民代表大会(全人代、日本の国会に相当)で「2兆元」減税として打ち出された製造業や交通運輸、建設業の「増値税(付加価値税)」引き下げは4月から、公的年金保険証の企業負担分の引き下げは5月から始まっています。インフラ投資の拡大や消費刺激策も次第に効果を発揮するでしょう。業績見通しが底堅いネット関連企業は引き続き注目しています。
<文:シニアストラテジスト 山田雪乃>