はじめに

相場の転機となりやすい「幻のSQ」

あくまで短期的な影響ということでは、「幻のSQ」にまつわるアノマリーも意識すべきです。上述の通り、SQは構成銘柄それぞれの寄り付き値段を元に算出されるため、寄り付いていない銘柄の気配値も含めて算出される現物指数とは値段、時間ともにずれが生じます。

場合によっては現物指数が付けていない数値で決まるケースもあり、日経平均(現物)の日中高値より高い「上方向の幻のSQ値」や、安値を下回る「下方向の幻のSQ」と呼ばれる現象が起きます。

もともとSQ値は大きな商いが行われた水準として、相場の節目として意識されやすい傾向がありますが、こうしたレアな状況はより注目されがちです。一般的に「上方向の幻のSQ」を形成した場合はその後軟調に推移しやすく、逆に「下方向」のケースでは強基調となりがちと捉えられています。

実際のデータでは、2014年以降の「上方向の幻」となった7回のケースでは当日に平均1%近い陰線を引き、翌週も2勝5敗(平均1.3%安)でした。成績はたしかに芳しくありません。

一方、「下方向」の11回では当日に平均1%近い陽線を形成するものの、翌週は5勝6敗(平均1.4%安)とこちらも冴えない結果でした。やはりここでもごく短期のアノマリーと見ておくべき現象でしょう。

過度の警戒は不要

今回見てみたアノマリーは平成時代に醸成されたものです。平成は「失われた20年」と言われるようにバブル崩壊の後遺症に悩まされ、日本株独り負け時代が大半を占めるので、心理的にも波乱警戒が優勢だった時代の結果ということもありえます。

実際にデータを確認しても、先物に代表されるデリバティブの影響は短期にとどまるケースも多く、経済や市場の安定度がそもそも高ければ、波乱は和らげられる可能性が高まります。

本来、証券価格は裏付けとなる企業価値、業績動向、成長性などのファンダメンタルズに規定されると考えれば、短期的な需給要因を気にし過ぎるのも賢明とは言えないでしょう。おそらく先物等の派生商品の市場拡大は今後も続くと思われますが、過度な警戒は不要と考えたいところです。

最後に足元の状況も確認しておきましょう。現在、現物買いの残高から売り残高を引いたネット買残は過去最低水準に落ち込んでいます。

ネット買残の推移

裁定解消に伴う現物売りが短期波乱の要因になることも多いですが、その懸念は相当に縮小しています。その意味で今回SQも大きな波乱とはなりづらいと言えますし、過去の相場大底圏に匹敵する状況から、経験則上は底入れ間近と考えることもできそうです。

<文:投資調査部 林卓郎>

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