はじめに

6月に入り、市場では米連邦準備制度理事会(FRB)による早期利下げ観測が急速に台頭しています。仮に米中貿易摩擦が長期化すれば、FRBが“予防的な利下げ”を実施するというシナリオが市場でかなりの支持を得ているといえます。

焦点は、もはや「利下げがあるかどうか」ではなく、「いつ実施されるか」というところに移っている印象です。市場あるいはトランプ政権から強い利下げ要求圧力を受け、FRBが従来の「忍耐強い姿勢」を維持するのが難しくなっているのは確かでしょう。


長期的な米国の金融政策とドル円相場

当局からも、セントルイス連銀のジェームズ・ブラード総裁など、一部で利下げ観測に同調する声も聞かれます。米国の利下げ観測の台頭は、日米金利差の縮小を通じて円高ドル安をもたらすという連想が働きやすいといえます。

実際、ドナルド・トランプ大統領が2,000億ドル相当の中国製品に対する関税を25%に引き上げることを表明した5月上旬以降、米国債主導で日米金利差縮小が加速し、それとともに円高ドル安が進行しています。

一方、長期的に見た場合、米国の金融政策とドル円相場の方向性は必ずしも一致しません。

過去を振り返ると、1990年以降、FRBの利下げ局面は5回あります。このうち、3回はでは円高ドル安が進行した反面、2回は円安ドル高に振れています。利下げサイクルは景気後退期と重なりやすいため、ドル安というイメージが湧きやすいのですが、逆にドル高というパターンもあり、興味深いものがあります。

過去の利下げ

なお、2015年6月にはドル円相場が一時125円台まで円安に振れていますが、当時は米国の利上げがまだ行われておらず、日米長期金利差は現在ほど拡大していませんでした。こうした事例からも、ドル円相場の値動きを予想する際、米国の金融政策や日米金利差を過度に信頼するのはリスクが高いといえます。

相場はどう反応するか

さて、話を現在に戻すと、仮に近い将来FRBが利下げを行った場合、ドル円相場はどのような反応を示すのでしょうか。

市場はすでに十分過ぎるほど利下げを織り込んでいるため、一段のドル安という展開は想像しにくいものがあります。また、もう少し先を見通しても、ドル安の動きは限定的ではないでしょうか。

今回は、あくまでも「予防的な利下げ」であろうことがポイントとなりそうです。米国が本格的な景気後退局面入りする可能性は現段階では低いといえ、利下げペースは緩やかなものになることが想定されます。さらに、米中貿易摩擦の進展次第では、そもそも利下げ自体が行われない可能性もあるでしょう。

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