はじめに
アルミ寸胴鍋が半年で穴が開く
東京ラーメンストリートは、何より客数が多いのが特徴。それと同時に高品質のラーメンを提供することが求められます。前島さんによると、路面店と違って1日に700〜800杯も提供する必要があり、こだわりと効率化を両立するのが難しいそうです。
「800杯を出す場合、普通はスープが冷凍になりますが、東京の玄関口でごまかしはいけないと思って、『俺式』ではスープをお店で炊いています。1日20時間以上スープを炊くので、通常10年以上はもつアルミ寸胴鍋が半年ぐらいで穴が開くほど。しかし、苦労してでもやる価値がある場所だと思っています」
東京駅の店はアクセスが良く、店舗の認知も高められますが、「追い出されないようするのが一番の課題」と前島さんは笑います。サービスの質を高めるための人員配置や、トレンドを追いかけたメニューを投入するなど、常に注目度を上げないと生き残れないといいます。
「自分が色あせると入れ替えの対象になるという危機感は常に感じています。ラーメン店同士で仲良くしているけど、バチバチしている。切磋琢磨が施設を盛り上げています」
ラーメン店のマトリクスを構築
東京ステーション開発は、各ラーメン店が一番の柱とするものを守りつつも、トレンドや変化にも対応するためメニューの「共同開発」も手がけます。
その際に活用しているのが、8店舗を俯瞰するマトリクス。スープのベースに使用する素材や、タレの種類、麺の太さなどで、各店舗をポジショニングして、かぶらないように配慮しています。
2018年10月にオープンした「東京煮干し らーめん 玉」については、スープのベースや煮干しの濃度、麺は太さを同社から提案しながらメニューを作り上げていきました。
こうした取り組みをする背景にあるのは、ユーザーの変化です。佐々木さんによると、ユーザーの舌が肥えたことで“ノイズ”のあるラーメンとないラーメンを食べ分けられるようになってきました。
たとえば、同じ塩ラーメンでもエグミの混じっているものもあれば、エグミを取り除き最後の一滴まで飲めるものもあります。昔は一部のラーメンファンしかわからなかったことが、一般のユーザーも判別できるようになり、より高品質なラーメンが求められるようになってきました。
3月にはJR東日本グループの鉄道会館が商業施設「KITTE丸の内」の地下1階に、人気ラーメン店を集積した「ラーメン激戦区 東京・丸の内」をオープンするなど、東京駅周辺のラーメン競争が激化。
しかし、東京ラーメンストリートはアイドルタイムを埋めれば、伸びしろがまだあるといいます。「朝ラーメン」のラインナップを六厘舎とソラノイロのほかにも追加することや、14時〜16時の小腹を満たしたい人を呼び込むメニューも検討中です。こうした取り組みが、次の10年を占う試金石となりそうです。