はじめに
読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナー(FP)が答えるFPの相談シリーズ。今回は読者の家計の悩みについて、プロのFPとして活躍する野瀬大樹(のせ・ひろき)氏がお答えします。
年金のお知らせが届いたので確認したところ、ところどころに「未納」がありました。後納制度があることを知り払おうと思いましたが、半分ほどは5年を過ぎており、払うことができませんでした。この場合、以下のどちらがお得なのでしょうか?
(1) 後納が可能な半分ほどの未納分だけ支払う
(2) 未納のままひとつも後納しない
もし金額によって変わるようでしたら、簡単に計算できる方法など教えてください。
(30代前半 独身 女性)
野瀬: 毎月支払っている年金。サラリーマンの方であれば、給料から自動的に差し引かれていますので、あまり意識されていないかもしれませんが、私と同じような自営業の方はその重さを実感しておられると思います。「これだけ払っているのに、老後には結局いくらもらえるんだろう?」というのは自然な疑問だと思います。
実は、この「いくらもらえるの?」は簡単に知ることができます。日本年金機構のWebページの「ねんきんネット」にログインすれば、将来もらえる年金の予想金額を知ることができます。
ただし会員登録をする必要がありますので、「そんな面倒なことは嫌」という方は以下の方法を試してみてください。
国民年金
今までの支払年数÷6=将来もらえる毎月の国民年金金額
厚生年金
今までの支払年数×平均年収÷2,500=将来もらえる毎月の厚生年金
かなりざっくりした計算式ですが、これで自分が将来もらえる年金額がイメージできると思います。
年金の「うまい活用」
また、本題に入る前に年金のうまい活用方法を考えてみましょう。私の得意分野である税金面で考えると、「国民年金基金」を利用する方法です。
国民年金基金とは、国民年金に自主的にプラスアルファして年金を支払う制度で、当然ですが、その支払った金額に応じて将来もらえる年金の金額も増加します。主に、厚生年金がなく将来の受取年金金額に不安がある自営業者のために用意された制度です。
これのなにがお得なのかというと、年金の支払い額が税金の計算に影響を及ぼす点です。私たちの所得税は収入金額すべてに税金がかかるわけではなく、そこから経費に加え、さまざまな「控除」を差し引いた金額に税率をかけて税金を計算することになります。
社会保険、つまり「年金」もそのひとつであり、国から言われて納めているものなので、所得税の計算上その金額はちゃんと差し引くことができるわけです。これが「社会保険料控除」です。
そして、この国民年金基金は「掛け金をいくらにするか」をある程度コントロールすることができます。
この、税金計算から差し引けて、その金額をコントロールできるという2点を利用すると、「今年は利益がたくさん出そうだな」と思ったら掛け金を増やして税金を押さえることができるし、「今年はあまり利益が出そうにないな」と思ったら掛け金を減らす対応が可能になるのです。そうすることである程度、納税額をコントロールでき、かつ将来もらえる年金を増やすことができるのです。自営業の方は検討する価値があると思います。
後納制度について
また、ご質問にありました後納制度に関してですが、基本的に使用したほうがいいです。確かに年金制度の危機が叫ばれていますが、私は年金制度そのものは破たんしないと思っています。
今の仕組みや制度がそのまま維持されるとは思っていませんが、おそらく今後、政府は消費税を徐々に上げ、その税収を使うことによって年金制度を“税収によって”維持すると考えられます。
今でも基礎年金の2分の1は年金の支払いではなく税金でまかなわれているのです。そして、消費税は年金を払っていない人、つまり年金をもらえない可能性がある人からも徴収されています。
そう考えると、「税により補てんされている年金は受け取ったほうが得だ」ということになります。確かに負担は重いですが、年金はしっかり払って「もらえる権利」を維持したほうがいいと思います。
また、今回のご相談に挙がった後納制度に関してうまい活用方法があるとすれば、先ほど話に出ました「社会保険料控除」を利用する方法です。どうすればうまい活用方法になるのかというと、この後納制度で支払った年金も「社会保険料控除」含まれる点を利用するのです。
学生時代に年金を納めていないという方は少なからずいると思います。また、仮に学生時代に年金を納めていたとしても、学生時代には収入がない方がほとんどだと思いますので、この支払った年金を「社会保険料控除」として使用できないことになります。差し引くべき収入がないからです。
では、学生時代に未納の方が社会人になってから後納する場合はどうなるでしょうか?
そう! この場合には「社会保険料控除」として使用でき、所得税を節税することができるのです。そう考えると「学生時代は事情があって未納だった」という人は、この後納制度を利用することで所得税が計算上、お得になるのです。
まだ後納期限が過ぎていない20代の方には、試していただく価値があると思います(過去5年分をさかのぼって納付できる「5年の後納制度」は、平成30年9月30日までとなります)。