はじめに

どういう時に金価格は上昇するのか

金価格を動かす要因には、リスクプレミアムもあります。リスクプレミアムとは、PER(株価収益率)の逆数(益利回り)から金利を差し引いたもので、リスクに応じて投資家が期待する上乗せ分の収益を指します。金利水準があまり変わらない条件の下では、PERが下がればリスクプレミアムは高くなり、上がれば低くなる特徴があります。

米国株式のリスクプレミアム(S&P 500指数の益回りから米国10年国債利回りを差し引いた数値)と、金価格は同じ方向に動く傾向があります。


金価格と米株のリスクプレミアムの推移

つまり、利益の割に株価が上昇してリスクプレミアムが低下した時に株価は強気となり、金価格は下落しやすくなります。一方、リスクプレミアムが上昇した時に株価は弱気な状態となり、投資資金が金に向かうことで金価格は上昇しやすくなるのです。

このように、経済成長への不透明感が強まって株価が低迷すると、価値を保全したいと考える投資家が資金を金に振り向け、金価格は上昇すると想定できるのです。

ポートフォリオに及ぼす効果

短期的に、金価格の上昇は経済成長などと論理的に関係しません。しかし、長期のトレンドでは、インフレを伴う世界経済の成長が、生産コストの上昇を通じて金価格を押し上げていくと期待されます。

短期のサイクルでは、株価指数のPERが低下してリスクプレミアムが上昇する時、金価格の上昇が期待できます。つまり、金と株式は互いに欠点を補い合う関係にあるといえるのです。

経済成長や世界の趨勢を完全に予測できるのであれば、一番良いと思う資産だけに集中投資すれば良いのですが、あまりに非現実的。実際には、未来のことは誰にもわからないので、投資タイミングや投資先の集中を避け、どのような状況にも対応できる資産のポートフォリオを作っておきたいものです。

そのように考えると、金はポートフォリオのバランスを良くする効果がある、といえるのではないでしょうか。

<文:チーフ・ストラテジスト 神山直樹>

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