はじめに

専門的な知識や高いテイスティングの能力などを駆使し、消費者のワイン選びの強い味方として活躍するソムリエ。ソムリエ資格の認定試験を実施している日本ソムリエ協会によれば、有資格者の数は3万人を超えます。

ソムリエスーツに身をまとい、ワインをテイスティングしながらコメントを口にし、ガラス容器のデキャンタにボトルのワインを移し替え……。“勉強家”が多いとされる日本のワイン愛好者にとって、ソムリエは“なりたい職業”の1つかもしれません。彼らの懐具合はいったいどうなっているのでしょうか。


日本全国から46人のソムリエが参戦

7月5日、東京・広尾のフランス大使館の大使公邸でソムリエのコンクールが開かれました。フランスのボルドー&ボルドー・シュペリユールワイン生産者組合が主催しているもので、今年が3回目になります。

ボルドー&ボルドー・シュペリユールワインは、国が定めた「AOC(原産地統制呼称)」という制度で、いわば「一定の基準を満たしている」とのお墨付きを得たもの。コンクールを主催した生産者組合は、そうしたワインの農家の集まりです。

コンクールには、全国のレストランやワイン専門店などで働く35歳以下の若きソムリエ46人が応募し、11人が準決勝へ進出。この中から3名のファイナリストが選ばれ、優勝を目指して戦いました。

決勝戦へ進んだ3人のソムリエは、テーブルに置かれたワインを次々とテイスティング。ワインの原料となるブドウの収穫年である「ヴィンテージ」や品種などがスラスラと口から出てきます。テイスティングしたワインに合う日本食のコースメニューを提案するといった難題もクリア。

レストランの来店客に扮した審査員には英語でサービスし、「2015年と2106年のボルドーワインはいずれも当たり年と言われているが、両者の違いは?」「赤ワインは好きじゃないので白ワインを飲みたい」いった注文にもひるむことなく対応していました。

優勝者は元スポーツマンの29歳

優勝したのは近藤佑哉さん。東京のフランス料理の名店、「銀座レカン」に勤める29歳のソムリエです。185センチの長身で、ソムリエスーツがよく似合います。

コンクール
コンクールで表彰を受ける近藤さん(左から4人目)

小学校の途中から高校まで兵庫県の学校でサッカーを続けた近藤さん。「背が高かっただけ」などと謙遜しますが、大学進学時にはスポーツ推薦で入学することも可能なほどの選手だったそうです。

ソムリエを志すようになったのは大学4年の時。地元では有名なレストランでアルバイトをしたのがきっかけです。酒をよく飲んでいたこともあって、「好きなことを仕事にしよう」との思いからソムリエの道を歩み始めることを決めたそうです。

卒業後、東京に出て、銀座レカンに勤務。その後、同店がリニューアルで一時閉鎖することになり、東京のホテルニューオータニの中にある高級フランス料理店「トゥールダルジャン東京」で4年間、本格的な勉強を重ねました。今年、再び銀座レカンへ戻り、ソムリエとして活躍しています。

「もともとビールが大好き。レモンサワーもよく飲みますよ」と笑う近藤さん。むろん、ワインも口にしますが、「適当な距離を置くようにしています」。

というのは、「お客さまにワインを勧める時、自分の好みを無理強いしかねないから」。そこにはプロ意識の高さがうかがえます。

ソムリエだけで食べていけるのか

「大学の同級生などに比べれば、もらっている給料は多いです」と近藤さん。5月には、フランスのシャンパーニュなどスパークリングワインに最も詳しいソムリエを決める「ポメリーソムリエコンクール」にも優勝。賞金100万円を獲得しました。

メディアの取材にもしばしば登場し、お店の集客増に貢献していることなども、給与面での評価対象になっているそうです。「セミナーや勉強会への出席、コンクールへの参加など、比較的自由にやらせてもらっています」。

そのうえで、「今は勉強を続けて土台を固める時期。さまざまな経験をして30代後半から40代になったころに何らかの形で(ワインの普及などに)役立つことができれば」と、しっかり先を見据えます。

「近藤さんのようなソムリエは全体からみればさほど多くない」。ソムリエ資格を持つ飲食店の幹部はそう話します。

「東京の高級レストランに勤務するなど、ソムリエだけで生計を立てることができる人は限られています。地方のレストランなどで働くソムリエの暮らしは、決して楽ではないはず」(同幹部)。コンクール優勝の栄冠はまさにトップソムリエの証しなのです。

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