はじめに

少子高齢化の影響やヘアスタイルの「ナチュラル志向」を背景に、男性用整髪料市場の縮小傾向が続いています。「若者のワックス離れ」が指摘される中、化粧品メーカーのマンダムがスタイリング剤の新シリーズを投入することを発表しました。

同社が着目したのは「目立ちたいわけではないけれど、自分らしく」したいという若者のインサイト(人を動かす隠れた心理)。どのような経緯で発売することになったのか、新製品発表会からその背景を探ります。


京大と共同開発した新技術を投入

マンダムが8月26日から販売開始するのは「ギャッツビー インサイドロックシリーズ」。自然な仕上がりのヘアスタイルをしっかりキープするという、京都大学と共同開発した「インサイドロック技術」を活用しています。

従来の整髪技術は「セットポリマー」「ワックス」「パウダー」などの成分によって、毛髪同士を固めたりくっつけたりする方法で、髪の外側から固定していました。

そのため、スタイリング剤を付着させると髪のキープ力は上がるものの、「整髪剤が付いている」「触るとベタベタ、ごわごわする」など不自然な見た目になるという課題があったといいます。

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一方、新たに開発したインサイドロック技術は「髪の内側で整髪」する手法を採用。ヘアスタイルが崩れる主原因となる湿気に強い成分を毛髪内部に浸透させることで、高いキープ力を実現したそうです。

研究開発を担当した技術開発センターの占部駿さんは、実際の使用シーンを想定したマラソンやサウナでの実証実験でも「スタイリングした髪型をキープすることができた」と胸を張ります。

個性志向から同調志向へ

2006年に発売した「ムービングラバー」シリーズによって、メンズ用スタイリング剤市場で大きなシェアを占めるマンダム。今回の新シリーズを投入する背景には、スタイリングに対するユーザーの意識の変化があります。若い男性のスタイリング剤の使用率が減少傾向を続けているのです。

同社が実施した調査結果から、2014年と2018年の使用率データを比較すると、20代の社会人は50%から40%、大学生は42%から39%、高校生は23%から15%へと減少しています。

2000年代はヘアスタイルで個性を主張したいと考える人が多く、ヘアワックスでねじった毛束を作るのが流行りでした。しかし、2010年代に入るとユーザーの価値観が「同調志向」に変わってきたと、商品企画部の山口和希さんは説明します。

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「ムービングラバーが発売された当時、中学校の友だちと一緒にトイレの鏡の前で髪をネジネジして、どうやったらかっこよくなるか追求した覚えがあります。2010年代になるとSNSの浸透などの影響で、周りの目線を気にして、空気を読む人が増えてきました」

「スクールカースト」の中で「一軍に憧れるけど、無理して悪目立ちしたくない」と、誰からも嫌われないようなスタイルが増加。「量産型男子」と呼ばれるような、シンプルな格好に前髪を下ろした髪型が好まれるようになった結果、「ナチュラルな髪型だからスタイリングをしなくてもいい」と考える人が増えたといいます。
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周囲に合わせて髪型を変える

しかし、同社の調査で同調志向が一段落し、周囲との調和を大事にしつつも、多様性も受容されるようになったことがわかってきたといいます。その要因の1つが、TwitterやInstagramのハッシュタグの影響です。

ハッシュタグを付けて趣味の投稿をするなど、学校とは別に自分らしさを出す環境が整いました。「三角形だったスクールカーストが左右に広がり、ひし形に変わってきています」(山口さん)。

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さらに、ヘアスタイルはナチュラルな髪型をベースとしながらも、「コミュニティによってスタイルや髪型など見せる自分を変えたい」と思っていることも判明。高校生・大学生の髪型はマッシュへアが7割を占めますが、マッシュヘアをベースとして普段は目立ちすぎず、TPOに応じてアレンジして楽しみたいというニーズが出てきているそうです。

とはいえ、既存商品のハード系ワックスはナチュラル感を作れず、ソフト系ワックスでは持続力が弱い――。そうした経緯から、いいとこ取りを目指して開発されたのが、ギャッツビー インサイドロックシリーズというわけです。「ワックス」と「セラム」は、ムービングラバーよりやや高い900円(税別)という価格設定になっています。

ここ数年、スタイリスト監修のサロン商品をドラッグストアで簡単に購入できるようになるなど、ヘアスタイリング剤をめぐる競争環境は従来より厳しくなっています。しかしそれ以上に、「ヘアスタイリング剤離れ」をいかに食い止めることができるかが、今後を占うカギとなりそうです。

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