はじめに
ヤフーはなぜリスクを負うのか
コーポレートガバナンスコードは、拘束力のある「法律」ではありません。無視しても刑事罰があるわけでもない、紳士協定に近いものです。独立委、指名・報酬委ともに、法律で定める前に、紳士協定レベルでルール化した制度ですので、その決定を無視したからといって、法令違反に問われるわけではありません。
実際、ヤフーは自社および自社の株主の利益を最優先に考える権利があるわけですが、それでも、上場会社、それも日本を代表する企業がこれをまったく無視するということは、そういう行儀の悪い会社なのだということを世に知らしめるリスクを負う行為であることは間違いありません。
そもそもアスクルはプラスの通販事業部からスピンアウトした会社なのに、なぜヤフーが41%もの株式を持っているのかというと、LOHACO事業を共同で育成していくために、2012年5月に業務資本提携をしたからです。
事業を運営するのはアスクルですが、ヤフーは集客面での協力と、必要資金300億円の拠出を行っています。実際、昨年8月までは、ヤフーのトップページにLOHACOのバナーが掲載されていたそうです。
出資当時の状況を振り返るアスクルの岩田社長(写真:筆者撮影)
300億円の資金は、アスクルの第三者割当増資を引き受ける形で拠出しましたので、その際にこれだけの株式を保有するに至ったのです。当時はヤフーの社長を宮坂学氏が務めていて、岩田社長は「宮坂氏とだからこそ、事業を共に手掛けたいと思った」そうです。
アスクルが抱く一縷の望み
もっとも、アスクルが独立性を維持できるための手当もしていて、信頼関係が崩壊したら、アスクル側はヤフーに対し保有株の売り渡し請求をすることができます。しかし、ヤフーは業務資本提携の解消も不要と考えていて、実際に株式の譲渡を実現するには、法的な手続きが必要になるでしょう。8月2日までに実現できる話ではありません。
ヤフーから派遣されている役員は、指名・報酬委が定時総会で提案する役員候補者を発表した取締役会の場で異議を唱えていません。ヤフーは総会の招集通知発送の直前になって、岩田氏の再任に反対すると表明しただけで、取締役候補者を株主提案するということもしていません。
何とも場当たり的な印象をぬぐえませんが、コーポレートガバナンスコードを無視し、定時総会で緊急動議を出し、取締役を総入れ替えすることも可能であり、それは法令違反ではありません。
それでも、そういうことをする会社なのだというレッテルを世間から貼られるのは間違いありません。アスクルが勝ち目のない勝負に抵抗するのは、ヤフーがそのリスクに気付き、方針を改めてくれることに、一縷の望みをかけているからなのです。注目の総会は8日後に迫っています。