はじめに
ようやく夏らしい日がやってきましたが、久々の夏の日差しは耐え難いものがあります。欧州では7月25日に熱波に見舞われ、パリで観測史上最高の42.6度を記録。72年ぶりに最高気温が塗り替えられました。一方、熱帯に位置するメキシコでは6月末に雹(ひょう)が一晩にして90センチ以上積もるなど、世界各地で異常気象がみられています。
世界経済フォーラムは「グローバルリスク報告書2019年版」で、2019年に世界で発生の可能性が高いリスク上位3位に「異常気象」「気候変動適応の失敗」「自然災害」を挙げました。自然環境関連のリスクは、3年連続で他を圧倒しています。中でも、気候変動適応の失敗は「影響度が最も大きいリスク」と指摘しています。
こうした中、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は2018年10月、パリ協定の世界の平均気温上昇を1.5℃未満に抑制する目標を達成するために必要な劇的かつ前例のない変化を遂げるには、最大で12年しか残されていないと報告しています。
そして、投資の世界でも、このような環境問題に対する関心が高まっています。今回は、その最前線を解説したいと思います。
グリーンボンドが注目され始めたワケ
地球温暖化などの環境問題を解決することを目的として、2008年から「グリーンボンド」が発行されるようになりました。これは、環境問題の解決に役立つ事業に使途を限定した資金を調達するための債券で、元本払いにおける一般的な信用力はその発行体が発行する通常の債券と同じです。
グリーンボンドに加え、社会課題への対応を目的とした「ソーシャルボンド」、両方の特性を有する「サステナビリティボンド」は、総称して「SDGs債」と呼ばれ、近年、国際的な注目度が増しています。
その背景にあるのが、2015年に国際連合で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」です。2030年を期限として、国際社会全体で貧困や不平等、気候変動など17の「持続可能な開発目標(SDGs)」に関する取り組みが進められています。
また、2006年の「国連責任投資原則(PRI)」策定から10年以上が経ち、環境・社会・ガバナンス(ESG)という視点を投資戦略に取り入れることについて活発に議論されていることも、背景にあるでしょう。
市場の拡大余地はいかほどか
SDGsの目標を達成するためには、全世界で年間約5兆~7兆ドルが必要です。これまでの投資額(年平均1.4兆ドル)から見れば、毎年1.9兆~3.1兆ドル(平均2.5兆ドル)の資金が不足する試算です(2014年国連貿易開発会議の報告書)。
この不足する資金ニーズを埋めるために、SDGsに貢献するプロジェクトに使途を限定したSDGs債などを発行する動きが広がっています。
2018年の世界のSDGs債は前年比6%増の1,710億ドルに拡大し、このうち、日本国内のグリーンボンド発行額は前年の2.4倍の5,363億円へと大幅に膨らみました。とはいえ、その市場規模はまだ小さく、今後の拡大余地は大きいといえるでしょう。
2014年1月採択の「グリーンボンド原則(GBP)」がグリーンボンドの普及に一役買いました。日本でグリーンボンドが発行され始めたことで、それまでは海外で発行されたグリーンボンドに投資してきた投資家の注目が国内市場に向けられるようになりました。
同年の初期は、グリーンボンドの主な使途は再生可能エネルギー事業や太陽光発電事業でしたが、その後、洋上風力発電設備の建設やLNG船などへと広がっています。