はじめに
東大、岡山大などで臨床試験
最近は、良好な治療成績の事例が増え、開発が一段と活発化しています。日本では東京大学で、脳腫瘍の患者を対象に「G47Δ(デルタ)」というヘルペスウイルスを利用した治験が行われました。
中間解析では、治療開始後1年生存率が92.3%と既存治療の15%を大きく上回りました。また、岡山大学では食道がんを対象としたテロメライシンの放射線併用による臨床研究が行われ、61.5%の患者のがんが消失するなどの結果が報告されました。
ウイルス療法はがんに対する免疫を高めることも分かり、「ヤーボイ」や「オプジーボ」などの免疫チェックポイント阻害剤との併用も期待されています。免疫チェックポイント阻害剤とは、がんが免疫を抑え込む仕組みを解除する薬剤です。これに、がんウイルス療法薬が高めた免疫の力を加え、より強力にがんを叩くという戦略です。
その効果を裏付けるデータは、いくつか報告されています。タカラバイオのヘルペスウイルスを利用した腫瘍溶解性ウイルス「C-REV」もその一つです。米国で悪性黒色腫(メラノーマ)の患者を対象にした臨床試験では、がん細胞が縮小、消滅した人はヤーボイだけでは2割程度ですが、C-REVとの併用で41%に高まりました。
注目される日本のベンチャー企業は
先進国で承認されているがんウイルス療法薬は、先述のIMLYGICのみです。使用領域もメラノーマに限られますので、現在の市場は数億円と推測されます。
しかし、今後、承認品目の増加や対象疾患の広がり、免疫チェックポイント阻害剤との併用などにより、市場の拡大が見込まれます。現在の開発品をもとに試算すると、2028年頃には6,000億円を超える見通しです。
一方、開発企業は限られ、世界でもベンチャー企業を中心に20社程度にすぎません。そうした中で、大手製薬会社の関心は高く、ベンチャー企業の買収や開発品の導入が活発化しています。
幸い日本には、こうした“異端”技術に積極的に取り組む企業が複数存在します。代表はタカラバイオ(証券コード:4974)とオンコリスバイオファーマ(4588)です。
これらは、がんウイルス療法薬の開発や提携ですでに実績を上げていますが、今後の開発の進展次第で一段の飛躍が期待できるでしょう。
また、今後の可能性のある企業として、アイロムグループ(2372)もあげられます。遺伝子治療で使うセンダイウイルスベクターを持ち、これを応用して、がんウイルス療法薬の研究も進めています。
<文:企業調査部 山崎清一>