はじめに
信じていたのに…
彼は脱サラして起業、結婚する時点では、仕事もうまくいっているという話でした。
「もともと銀行員だし、起業した会社も金融関係。地道に業績を出しているから絶対に損はさせないというので、私の預貯金は全部彼に預け、家計も任せました。パソコンで家計簿をつけているのを見せてくれることもありましたが、私は彼を信頼していたから、見せなくてもいいよと……」
ところが結婚して半年ほどたったころ、サキさんの会社や自宅にクレジット会社からの督促状が来るようになりました。開封してみるとあちこちからキャッシングをしていることが発覚。
「私、自分のクレジットカードは1枚だけにしていたんです。彼がいろいろなカードを使うより1枚にまとめて、ポイントをうまくためたほうがいいと言うから。あとのカードは彼に預けていました。そこからキャッシングされたんですね」
帰宅した彼に尋ねると、「大丈夫、来月一括で返せるから」という返事。そこでようやく、彼女は疑念を抱いたのです。
「実は結婚してから、ほとんど夫婦の営みがなかったんです。私が子どもをほしがっているのを知っているのに。今日こそチャンスだからと言っても疲れていると拒否されていました。そもそも本当に仕事がうまくいっているのかどうかもわからない。そんなあれこれを思いながら、体中が泡立つようなイヤな予感がしました」
悪い予感は的中、残ったものは
彼女は翌日、午後から代休をとって彼の会社へ行ってみました。それまで会社には行ったことがなかったそうです。
「古いビルの小さな一室に、確かに会社の看板はありました。でも彼はそこにはいなかった。それどころかドアは鍵がかかっていて開かない。管理人さんに尋ねると、賃貸料を滞納したまま逃げたという噂だって」
帰宅すると自宅の賃貸マンションの前に新車が止まっています。助手席に女性が乗っているのが見えました。そしてマンション入り口から出てきたのはサキさんの夫。
「彼が彼女に笑いかけながら、運転席に乗り込むところを、走っていって何してるのよ、と捕まえました。『なに、この車』と言うと、彼はへらへらしながら『買った』って。そして私を振り切って車に乗ると走り去ってしまったんです」
それきり彼は帰ってきませんでした。結局、彼女の預貯金400万円が消え、キャッシングや買い物で1000万円以上を使われていたのです。
「離婚して自己破産もしました。刑事と民事で彼を訴えようとしたんですが、もうその気力が私には残っていなかった」
ある日、マンション前にぼこぼこに壊れた例の新車が置いてありました。彼の仕業です。車は売ることさえできず、廃車にするしかありませんでした。
「今は小さなワンルームマンションで暮らしています。ようやく落ち着いたのはここ1年くらい。私の何がいけなかったのだろうとずっと考えています。一時期は死ぬことばかり考えていました」
愛情が裏切られたショックは大きかったと言います。彼女が悪いわけではありません。愛という弱みにつけ込まれてしまったのではないでしょうか。