はじめに

植物由来の人工肉が世界の投資家の注目を浴びています。きっかけとなったのは、5月2日に米ナスダック市場に上場した「ビヨンド・ミート」という新興企業。エンドウ豆など植物由来の成分から本物の肉に似せた食品(人工肉)を製造する大手メーカーです。

同社の公開価格は25ドル、上場初日の初値は46ドル、直近8月16日の終値が約145ドルと、高値からは反落したものの公開価格の約5.8倍まで上昇。2018年の純損益は赤字で、PSR(株価売上高倍率、時価総額を年間売上高で除して算出)は約100倍と非常に割高ですが、それだけ人工肉の将来性に対する投資家の期待も強いといえます。

この米国発の人工肉ブームは、膨大な人口と潜在的な食糧問題を抱える中国でも注目されており、現代科学に基づく人工肉の開発が進められています。今回は、ビヨンド・ミートに続く可能性がある有望企業について解説したいと思います。


中国には古来から人工肉があった

植物由来の人工肉は本物の肉とは違って、大量な穀物や水を消費して家畜を飼育、屠殺する必要がなく、コレステロールが少ないなど健康食としてメリットもあります。そのため、完全菜食主義者(ヴィーガン)や動物保護主義者、環境保護主義者などに支持されています。

中国では古来より、大豆や小麦粉、油、調味料などを使って本物の肉に似せて作る「素肉」(スゥロー)と「素鶏」(スゥジー)と呼ばれる食品があります。このうち、素肉は豚肉、素鶏は鶏肉の食感に似ており、主に僧侶の精進料理や家庭料理に使われています。

この素肉、素鶏と話題の人工肉は、ともに豆類の植物性タンパク質を主な原材料としていますが、大きな違いとして現代の科学技術を用いて肉特有の味、うま味を忠実に再現できるか否かが挙げられます。

素肉と素鶏は噛み応えなどの点で本物の肉に近いものの、うま味の再現が難しいため、濃い味付けになりがちです。一方、ビヨンド・ミートの人工肉はエンドウ豆の粉やキャノーラ油、果物・野菜ジュース、アラビアガム、ビーツなどの材料を用いて肉のうま味を忠実に再現しており、完成度が圧倒的に高いといえます。

中国版「人工肉」で注目されている企業は?

中国の人工肉関連企業としては、万洲国際(香港メインボード上場:288)や双塔食品(深セン中小ボード上場:002481)などが挙げられます。

前者は、河南省を本拠地とする中国最大の食肉加工会社で、米同業のスミスフィールドも傘下に保有しています。売上高の大部分は豚肉関連製品が占めていますが、スミスフィールドを通じて人工肉の研究開発も行っており、8月末からハンバーグ、ミートボール、ソーセージ、ミンチなど植物由来の人工肉製品を米国の小売店で発売する予定です。

双塔食品は、山東省を本拠地とする中国の大手食品メーカーで、主に春雨やピープロテイン(エンドウ豆由来のプロテイン)、デンプン、食物繊維などの製造販売を手掛けています。同社製のピープロテインはもともと飼料向けの需要が多かったのですが、近年人工肉の原材料として注目を浴びたことで、人工肉メーカーや海外向けの販売が急増しています。

今年9月の中秋節には、同社のピープロテインを使用した人工肉の月餅が発売される見通し。これをきっかけに、中国で人工肉に対する認知度と同社の知名度がさらに高まりそうです。

中国版「人工肉」の成長余地

上記の2社以外にも、さまざまな中国本土の上場企業が人工肉の関連企業として注目されています。しかし中には、人工肉とあまり関係なく、単に投機の対象になっている企業も多いため、現段階で人工肉の成長企業を見極めるのは困難であると考えます。

とはいえ、人工肉の市場規模自体は今後も拡大し続けると予想されています。市場が成長する過程で有力な新規参入企業や成長企業が生まれて、株式市場を賑わすことになりそうです。

中国は約14億もの人口を抱え、昨年1人当たりGDP(国内総生産)が1万ドルに近づくなど、国民の生活水準が向上したことで食肉の消費量も年々増加しています。経済協力開発機構の統計によると、2018年の中国の豚肉消費量は5,522万トン、牛肉消費量は769万トンと、それぞれ世界全体の約46%と約11%に相当する量を消費しています。

今後、人工肉が普及すれば、家畜の飼育に必要な穀物や水、飼育過程に排出される温室効果ガスを大幅に削減できるため、中長期的には中国の食糧問題や環境問題の解決につながります。また、短期的には健康意識が高まった中間層による人工肉の消費増加が期待でき、中国版「人工肉」の成長余地は大きいと考えます。

<文:市場情報部 アジア情報課 王曦 写真:ロイター/アフロ>

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