はじめに

米中摩擦がエスカレートする中、中国のネット通販市場は順調に拡大し続けています。

アメリカの経済誌「ウォール・ストリート・ジャーナル」は中国ネット通販最大手アリババ(ティッカー:BABA)の決算好調(8月15日発表)を受けて、「中国景気減速どこ吹く風」と題した記事を掲載しました。その理由の1つとして、「618ネット商戦」での売上高が過去最高を達成したことを挙げています。

この2日前には、アリババに次いで中国ネット通販国内2位のJDドットコム(JD)も四半期決算(8月13日)を発表。こちらも「618ネット商戦」が好業績に寄与し、四半期ベースで過去最高益を達成しました。

この2社で中国のネット市場シェアは約9割を占めていますので、中国のネット通販市場は相対的に米中摩擦の影響をそれほど受けていないといえます。


「618ネット商戦」とは?

中国では年2回、大きなネット商戦があります。1つは、毎年秋に開催される「独身の日商戦」(11月11日)。もう1つは、毎年6月に開催される「618ネット商戦」です。その規模は「独身の日」商戦に匹敵しますが、日本では「独身の日」商戦ほど知名度が高くありません。

「618ネット商戦」はJDドットコムが設立日の6月18日を記念して開催したことに由来します。現在では、アリババなど業界他社も実施しており、「独身の日」商戦に並ぶ一大ネット商戦として定着しました。

中国ネット通販の取引額

2019年の「618」商戦の取引額は前年比26.6%増の2,015億元(約3兆2,240億円)に達しました。これは2018年11月の「独身の日」商戦に匹敵する取引額(2,135億元)です。

今年の「618ネット商戦」の意義

中国電子商務研究センターによると、今年の各社の「618ネット商戦」の売上状況から「高品質な有名ブランドや輸入商品の人気が高く、地方都市では消費がさらに活発になり、単価も徐々に上げっている」と指摘しています。

実際、アリババやJDドットコムはいずれも、今回の「618ネット商戦」で中国内陸部の地方都市・農村部からの取扱額が倍増したことを明らかにしています。今年の商戦は、中国の地方都市・農村部の消費力と潜在需要の大きさの一端が実証された点に重要な意義があったと考えています。

今後の中国ネット商戦の主戦場は「大都市から地方都市・農村部」へ移る可能性もあるとみています。そしてこの流れは、中国政府の内陸部開発による沿海都市部との「所得格差の是正」などにもつながります。

中国ネット通販の市場規模

米政府による中国ネット企業の海外進出への締め付けが逆に、中国内陸部への市場開拓に向かったのは皮肉なことで、中国共産党にとっては「うれしい誤算」だったと思います。米中摩擦が長期化すればするほど、アリババやJDドットコムなどのネット通販業者は今後、発展余地が大きい中国内陸部の需要掘り起こしを本格化させるとみています。

<文:市場情報部 佐藤一樹 写真:ロイター/アフロ>

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