はじめに

おいしくて栄養があってとにかく安い! さっと茹でたり、炒めたり、手軽に食べられる「もやし」は私たちの食卓と家計を助けてくれる心強い存在です。

実は、もやしが安いスーパーは、ほかの品物も安いと思われる傾向があるそう。そのためスーパーで見かけるもやしは、いつも大特価。お店への呼び込み役として、“赤字上等”の目玉価格で店頭を賑やかします。

しかし、そのもやしが今、消滅の危機に面しています。

3月、「工業組合もやし生産者協会」は、商品が極めて低価格で取引されている現状に対して声明を発表。

「もやし生産者は、長年に渡り原料種子高騰や賃金上昇などに対応し続けたことにより体力を消耗しきっております。これ以上の経費削減への努力はすでに限界を超え、健全な経営ができていない状況です」と、厳しい実態を訴えます。

もやし生産者たちが、今、このような切実な声をあげたのはなぜなのか? そして、反響は? 協会を直撃しました。


100社以上の生産者が廃業する厳しい現実

――もやし1袋、19円。

この金額を適正な価格だと思いますか?

スーパーで売られている野菜のなかで最も安価で、主婦だけでなく、一人暮らしの学生にも重宝される、もやし。その安さに驚きつつも、ついついお得と手を伸ばしてしまいます。

しかし、その度を越した安売りにより、もやし生産者は厳しい状況に追い込まれています。

去る3月9日、工業組合もやし生産者協会は「もやし生産者の窮状について」という声明を発表しました。「もやし生産者の窮状にご理解を!」と題し、市場やスーパーなどに対して、適正価格での取引を呼びかけてます。

同文書によると、2005年と比較して、もやしの小売販売価格は約10%も下落。なんと約40年前の販売価格(1977年平均価格「総務省家計調査」参考)よりも低い水準に留まっているといいます。

一方、原料種子や人件費など、もやしの生産コストは上がり続けています。

特に本年は、国内流通の9割を占める緑豆もやしの原料種子価格が高騰。収穫期に降雨があったため品質が悪化し、収穫量が激減した結果、2005年の3倍もの値になりました。

一向に上がる兆しがないもやしの販売価格と、上がり続ける生産コスト。経営を圧迫され続けたもやし生産者たちは、悲鳴をあげます。

そして、その状況に耐えきれなくなった多くのもやし生産者が廃業。2009年には全国に230社以上あった生産者は100社以上減り、現在は130社を切っているそうです。

このままでは、「日本の食卓からもやしが消えてしまう日も近い」と同協会は警鐘を鳴らします。

もやしの適正価格はいくら?

消費者として想像もし得なかった、もやしの危機。今回の声明が多くのメディアで取り上げられたことで、農家の窮状が明らかにされました。

工業組合もやし生産者協会の事務局の方に、今回の声明に込めた想いとその反響を聞いてみました。

――もやし生産者の方の厳しい現状について、声明ではじめて知りました。まず協会の立ち位置について教えていただけますか?

「工業組合もやし生産者協会の主な役割は、もやし栽培農業に関する指導及び教育、調査研究などです。行政庁とのやり取りも行っています。

また、今回のような有事の際には、いち生産者が声をあげただけでは届かないことが多いので、業界団体として、その声を届ける役割も担っています」(工業組合もやし生産者協会・事務局、以下同)

現在130社ほど存在する、もやし生産者のうち、およそ半数が同協会に加入しているそうです。

――声明では、もやしの“適正価格”での取引を呼びかけていますが、もやし1袋の適正価格とは一体いくらなのでしょうか?

「店頭小売価格でいうと、1袋40円前後が妥当だと思っています」

とはいえ、生産者の立場からは、スーパーなどで売られているもやしの小売価格について、「なにも言えないのが現状」だといいます。

そしてこの先、適正価格以下での取引が行われ続けると、さらに生産者は減少し、「もやしの価格が高騰する可能性がある」と事務局は語ります。

消費者ができることは

――もやし存続のために、私たち消費者ができることはありますか?

「例えば、スーパーで1袋19円ほどでもやしが売られていると、もやしの価値はそれくらいだと認識されてしまい、もし40円に値上げをしても、それだけの価値はないと思う方もいると思います。

しかし、本来もやしには40円ほどの価値があって、現在の価格は特売で“安く売られているだけ”だと消費者の方に知っていただくことで、すぐには難しくても、少しづつもやしの価格が変わっていくことにつながると期待しています」

まずは、「消費者にもやしの適正価格を認知してもらうこと」が協会の願いだと語ります。

そして、この状況が大きく報道されて以降、協会のホームページには消費者からの激励の声や、「私たちになにかできることはないか」といった応援のメッセージが数多く届いているそうです。

商品が安いとうれしいのが消費者心理ではありますが、その結果、もやしが食べられなくなったり、将来、高値でしか手に入らなくなることは避けたいもの。

安定した供給のためには「多少の値上げは問題ない」という声も多く寄せられています。

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