はじめに

「万人受けするものより、本当においしいもの」

気になるのは、個性的なメニューの数々を矢継ぎ早に開発する方法です。ユーザーの声や、営業や現場の意見を反映させた商品のほか、多くの割合を占めるのは、松屋の創業者で会長の瓦葺利夫氏(78歳)のインスピレーション。たとえば、カレーであれば「こういうものを作ってほしい」という案が何種類も出てくるといいます。

「会長が自ら最後の最後まで何十回も試食します。会長もしくは社長のOKが出たメニューしか発売に至らないので、その背後には世に出なかったものが膨大にあります」(邑山マネージャー)

邑山マネージャー

ヒットした商品はユーザーから再度販売を希望する声が寄せられ、「うまトマハンバーグ」や「ゴロゴロ煮込みチキンカレー」のように、マイナーチェンジを繰り返しながら何度も登場することもあります。

「まったく同じ商品は基本的には出しません。お客様がわからない程度にブラッシュアップして、おいしくしています。たとえば3〜4年前には無添加にできなかったものが、現在では技術の進歩で無添加にできるようになったり、物流や工場の改善といった要素もあります」(同)

過去には、人気が本格化する前のスープカレーを、ナン付きで販売したこともありました。こうした“攻めた”商品を開発する理由は、「松屋は万人受けする中途半端なものよりも、本当においしいものを追求したい。チャレンジしないとお客様にも楽しんでもらえない」という思いがあるそうです。

新・牛丼戦争に独自戦略で挑む

同社には、商品開発に携わる4〜5人のプロの料理人がいて、会長のインスピレーションを具現化したり、営業の希望を聞いたりしてメニューを作り上げます。開発の際に重視するのは、おいしさだけでなく全国に約1,000店ある店舗で再現できるオペレーションにすること。

「高校生ぐらいの若い年齢の方から、60歳を超える方までアルバイトにいますので、誰が作っても同じ味になるものを目指しています。オペレーションは相当簡略化されていて、店舗に包丁は置いていません。調理は焼くか煮るかといったぐらいです」(同)

松屋

他にも、セルフサービス式の新型店舗やQRコード決済の仕組みを導入したり、TwitterやLINEなどのツールの活用も始めている松屋。「牛丼戦争」と呼ばれたデフレの時代から、新たな付加価値を付けることにフェーズが移りつつある牛丼業界でも、順調に成長曲線を維持することができるでしょうか。

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