はじめに

ヤマト運輸が、これまで重要取引先だったアマゾンドットコムの荷物のうち「当日配送サービス」の引き受けから撤退する方針を固めました。同社では、人手不足による従業員の過重労働が問題になっていましたが、いよいよアマゾンとの取り引きを抜本的に見直すことにしたようです。

通販のヘビーユーザーにとっては便利なサービスだったアマゾンプライムも、今回のヤマトの撤退によって見直しが必至だと言われています。ヤマトはどう動くのか、そして通販の未来はどうなるのか。状況をまとめてみます。


ヤマト、アマゾン当日便からの撤退

報道によると、ヤマト運輸が2016年度に取り扱った荷物は前年比7.9%増の過去最高で18億7千万個。その1~2割がアマゾンドットコムの荷物だということです。

これまで宅配便の世界では、大口顧客は荷物の量が多いことを武器に値引き運賃を要求してきました。アマゾンの場合、通常顧客と比べると、だいたい半分の価格で宅配業者を使ってきたと言われています。

アマゾンマーケットでは送料が257円に設定されていますが、どうやらその価格がアマゾンが宅配業者に支払っている運賃の平均水準のようです。これは安くても400円と言われている通常の荷主からみれば、驚くほど低い価格です。

この価格水準では宅配業者に利益が出ません。宅配大手のうち、真っ先に撤退を表明したのが佐川急便でした。その結果、ヤマト運輸の荷量が大幅増加したわけですが、そのヤマトもいよいよサービスの維持が無理という状況に追い込まれてしまいました。

仮にヤマトが撤退すれば、残るは日本郵便だけ。アマゾンのサービスを日本郵便が一手に引き受けていくのか? それとも現在の宅配サービスの維持は不可能という結果になるのか? 急成長したインターネット通販が今、曲がり角に来ています。

当日便が消費者に支持された背景

今回、ヤマトが撤退を表明したのはアマゾン「当日配達サービス」分の荷物についての話です。これは、年3,900円を支払ったアマゾンプライムの有料会員に向けたサービスで、会員は「当日お急ぎ便」を何度でも無料で使えるように設定されています。

当日お急ぎ便は、通常会員でも514円を支払えば利用できますが、利用者の大半はアマゾンプライムユーザーです。サービスが適用されるのは、東名阪で日本の人口の8割をカバーする人口密集地域で適用されています。

この当日お急ぎ便が適用可能な商品の場合、居住地によって時間は異なりますが、購入の締切が早くて昼頃、私のように都心部に住んでいるユーザーであれば、当日の15時15分くらいまでに注文すれば、その日の21時には商品が自宅に届きます。

きっとこのサービスのヘビーユーザーは、昼間仕事をしているか、学校に行っていて、夜、自宅に戻る人でしょう。だから荷物の受取時間は、夜の20時~21時に集中します。これが宅配会社に過重な労働を強いることになる。問題のメカニズムはこういうことです。

当日注文した荷物が当日自宅に届くまで

関係者への取材によると、アマゾンプライムは以下のような仕組みになっているようです。

アマゾンの巨大な倉庫のなかでは、業務委託を受けて運営をしている日本通運の社員や従業員たちの手によって、アマゾンプライムで注文された商品が優先してピックアップされます。

配達エリア毎に決まっている当日お急ぎ便の注文締切時間を過ぎた頃には、すべての当日配達分の荷物が集められ、アマゾンの倉庫から、ヤマトや日本郵便の宅配拠点へと運ばれていきます。

ヤマトを例に取ると、商品はヤマトの物流拠点で仕分けされ、最終的にヤマトの配送センターに午後6時から7時頃には到着。そこから手分けをして消費者の自宅への配達が始まり、最終的に午後9時に配達が完了するという流れです。

ヤマト運輸にしてみれば、夕方から夜間にかけて荷受け荷捌きのピークがやってくることになり、これが現場の過重労働につながっていました。

そして、その荷物の大半が通常の半分の価格で引き受けた“儲からない”商品だということで、今回、「撤退」という言葉が新聞各紙の紙面をにぎわせる結果となったのでした。

[PR]NISAやiDeCoの次は何やる?お金の専門家が教える、今実践すべきマネー対策をご紹介