はじめに

想定される今後のシナリオは3つ

それでは今後、アマゾンのサービスはどうなるのでしょうか? 考えられるシナリオを3つ提示してみたいと思います。

まずひとつ目は、ヤマトがアマゾンから撤退し、アマゾンプライムは日本郵便が一手に引き受けるようになるということ。この場合、日本郵便の配送能力がヤマトの3分の1程度しかないという点がボトルネックになります。つまり現在の量の配達は不可能ということです。

そうなるとおそらくアマゾンは、当日便の締め切り時間を変更して物量を調整するようになるでしょう。例えば、締切を正午ではなく、午前10時頃に設定するなど締め切りを早めると、当日便の荷物の量を日本郵便の配送能力に合わせて減らすことができます。

現在のように、正午から午後早い時間にかけての注文は翌日配送に回すことになりますが、アマゾンプライムのサービス自体は維持できます。これが第一のシナリオです。

第二のシナリオは、アマゾンが当日お急ぎ便を撤廃するというもの。当日お急ぎ便が過重労働の問題を引き起こしているわけですから、これを辞めればヤマトが撤退する理由もなくなります。

そもそもアマゾンの荷物は、通常会員でも翌日には自宅に届きます。それで満足しているユーザーも少なくないでしょう。アマゾンプライム会員へのサービス自体は、「翌日お急ぎ便」のように内容を変えて維持させることができれば、サービスを大きく変えずに、現状の宅配ネットワークを維持できるようになるでしょう。

業界を発展させる可能性がある唯一のシナリオは?

そして第三のシナリオは、大幅な値上げです。通常の大口割引の荷主は、宅配一個あたり400円程度のコストを支払っています。アマゾンの平均水準が250円近辺だとすれば、そこからこの水準までの値上げに応じれば、当然ヤマトは利益が出るようになるわけですから、結果として撤退せずに設備投資や人員投資もできるようになります。さらには、すでに撤退した佐川急便も、この価格であれば、アマゾンの荷物を再び扱うようになるかもしれません。

長期的にみれば、このシナリオが合理的です。なにしろインターネット通販は、まだまだ市場が伸びる可能性が高いため、業界全体で物流のキャパシティを今よりも大きくする方向で解決法を模索したほうがずっといいからです。

しかし、その値上げ分のコストは誰かが負担する必要があります。第三のシナリオの考えうる最適解は、消費者がそれを負担することになるでしょう。

例えば、書籍で宅配が無料とされている部分を一回150円に設定。実は現在は年3,900円のアマゾンプライムについても、日本の会員価格はアメリカの半額に近いのです。年9,600円(月額800円)程度に大幅に値上げした方が、宅配サービスの原資となるはずです。

3つのシナリオを提示してみましたが、さて、現実はどう動くのでしょうか。

と、原稿を書いている最中、ヤマトが宅配便の基本運賃値上げを決めたという速報が飛び込んできました。アマゾンとの価格交渉も検討しているようです。

業界が健全に発展していくためを思うと、第三のシナリオに向けて物事が動くことがいいように思えます。さあ、どうなるのでしょうか? 各社の動きから目が離せなくなってきました。

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