はじめに

警察庁の発表によると、今年上半期の特殊詐欺の認知件数は8,025件、被害額146.1億円。減少傾向にはあるそうですが、1日あたりの被害額はなんと約8,069万円にもなるそうで、いまだ深刻な情勢です。自分(わが家)は大丈夫」と思っていても、いつ、詐欺グループから電話やメール、SMSが届くかはわかりません。だまされないためには、まず、その手口を知っておくことが大切です。

そこで、数々のだましの現場を取材・経験するジャーナリストの多田文明さんに、令和元年の特殊詐欺事件の傾向について聞きました。


――今年、印象深かったのは年初にあった「アポ電強盗」です。

いまはもう、ほとんど聞かなくなりましたね。最初は手っ取り早くていいと思ったのかもしれませんが、証拠が残りやすいですし、強盗・殺人となると警察全体で捜査が行われます。リターンに比べ、リスクが高すぎる。それよりは、本人に気づかれないようにだましたほうがいいと判断したのではないでしょうか。

――ほかに、今年、特徴だったことはありますか?

今年はオリンピックのチケット発売、改元に自然災害と話題となるニュースが多く、手口が広がりましたね。たとえば、芸能人の薬物逮捕報道が過熱していたときには、レターパックで高齢者の家に白い粉を送りつける「白い粉詐欺」がありましたし、平成から令和になるタイミングで「改元詐欺」などがありました。

――「白い粉詐欺」に「改元詐欺」?

白い粉を送りつけ、「麻薬取引のリストにあなたの名前がある」「口座が悪用されている」とアポ電をかけ自宅に赴き、カードをだまし取るのが「白い粉詐欺」です。「改元詐欺」は銀行関係者を名乗り、「元号が変わるのでキャッシュカードが使えなくなる」とうそをついて、やはり、キャッシュカードをだましとるものです。だまし方もお金の受け渡し方法も多様化し、手口はどんどん巧妙化しています。

――「オレ! オレ!」と言って、お金を振り込ませる「母さん助けて詐欺」はもう、古いんでしょうか?

もちろん、いまもあります。ただ、「オレオレ詐欺」については、注意喚起が行き渡って、お金をATMからの振込させることが難しくなりました。そこで、郵送や宅配便、バイク便が使われるようになったのですが、この手口に対しても捜査が進んだ。そこで、アポ電をかけて、現金を自宅へ取りに行ったり、近くの場所まで呼び出す形や、現金ではなくキャッシュカード自体を対面でだまし取るというやり方が増えていますね。

今年になってとくに目立ったのが、カードを入れた封筒をすり替える、詐欺と窃盗と詐欺を合わせたような手口です。

――封筒のすり替えとは?

たとえば、警察を装って電話をかけ、「あなたの銀行口座が詐欺犯に悪用されているおそれがある」とうそをつき、キャッシュカードを用意させておくんです。その後すぐに家を訪問し、封筒を手渡して、そこに暗証番号をメモした紙とキャッシュカードを入れさせるんです。

「この口座をあなた自身が使っていないことを証明するために、封をして厳重に自宅で保管をしてください」
「封のところに印鑑を押す必要があります」

こう言って、本人が印鑑をとりにいくためその場を離れたとき、詐欺師は事前に用意していた、ポイントカードやトランプの入った別の封筒とすり替えるんです。

――手が混んでます。

もちろん、そのまま目の前で「キャッシュカードを預かります」とだましとるケースもあります。ただ、ATMで1日に引き出せる現金には上限がありますから、怪しいと気づかれて口座を凍結されたら、お金を引き出せなくなってしまう。すり替えておけば、被害者は手元にキャッシュカードがあると思っていますから、そのぶん、発覚も遅くなる。

――こう言うとなんですが、頭いいですよね……

非常に狡猾ですよ。年初に静岡で多発したNHKを騙ったアポ電も巧妙でした。高齢者宅に電話をして、実在する番組名を出しながら、「一人暮らしのお年寄りを対象に調査を行なってます」と言うんです。

そこで、まず「お一人暮らしですよね?」と聞き、次に「お買い物などは一人で行かれるんですか?」と尋ねる。公開された音声を聞くと、「そうなんですか? 大変ですよね〜」と非常になごやかに会話をしているんです。

そして、「静岡県の平均的な貯蓄額は統計上600万円だと言われています。個人情報ですので、直接、金額を聞くわけにはいきませんので、上か下で答えていただけますか?」とこう聞くわけです。

これだけで、怪しまれもせずに一人暮らしなのかどうかと資産情報を聞き出している。

――これは信じちゃいそうです。

ですよね。でもじつは、世間話のような2番目の質問もきわめて重要なんですよ。

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