はじめに

――どうしてですか?

買い物を一人でしているかどうかで、本人が動ける人かどうかがわかります。銀行でお金を引き出して、公園に呼び出して受け渡すにしても、コンビニでプリペイドカードを買わせるにしても、本人がしっかり動けなければ、お金はだまし取れません。そういった意味で、この2番目の質問はとても大事なんです。

聞き出し方が上手なので、なんの警戒もせずに答えてしまう。情報を与えてしまうと、詐欺師も次の手を打ってくるわけです。

――なるほど。

だまされているのは高齢者だけじゃないんですよ。佐川急便の偽サイトは大きく報じられましたが、ドコモを装ったフィッシング詐欺が増えていますし、5月くらいには、30〜40代の女性を狙った「検察庁ホームページ詐欺」というのがありました。

――検察庁ホームページ詐欺?

警察官を名乗る男から「あなたが犯罪に巻き込まれているかもしれない」という電話がかかってくるんです。当然、「まさか!」と思いますよね。そこで、スピーカーフォンなどにするように言われて、教えられたIPアドレスを入力すると、検察庁そっくりのサイトが出てくるわけです。で、自分の名前を入力してみると、自分が重要参考人であるような書類が出てくる。で、あわててしまい、詐欺師の指示されるままにインターネットバンキングでお金を払ってしまうというものです。

――これからどんな手口が増えるでしょうか?

消費税が10%になって「増税で生活はどうですか?」と公的機関を装って電話をかけて聞き出す手口もあるでしょうし、「増税に伴い、保険料が戻ります」という形の「還付金詐欺」もますます増えるでしょうね。

また、キャッシュレス決済のポイント還元は非常にわかりにくいですから、そこも狙われるかもしれない。「ポイントが還元されるカードに切り替えましょう」「登録しましょう」と言いながら、手続き方法についてわかりやすく説明してくれたら、高齢者は「ありがとう」という気持ちになる。となると、「古いカードをお渡しください」の言葉に応じてしまいやすくなります。

いまでは、スマホを持っているお年寄りも多いので、「検察庁ホームページ詐欺」のように、スマホをスピーカーにさせて、逐一、ボタンを操作させてインターネットバンキングに入金させるなんて手口が出てくるんじゃないかと懸念もしています。

――来年のオリンピック・パラリンピックがらみではどうでしょう。

東京オリンピックの開催決定の頃には、「オリンピック優先入場券・購入申込書」を送りつける手口がありましたが、今年7月には高齢男性のもとに「抽せんの結果、あなたに東京オリンピックのチケットが当たりました」という不審な電話がかかり、代金を振り込ませようとする事例も発生しています

すでに海外の転売仲介サイトも問題になっていますし、「観戦チケットが当たる!」なんてメールやSMSが送られてきて、クリックしたら詐欺サイトへアクセスしてしまい個人情報が抜かれてしまう、なんてのも出てくる可能性は考えられますね。

――油断ができませんね。

とにかく、巧妙ですよ。ある手口が広がり、自治体や警察が注意喚起をしたり対策を講じると、彼らはさらにその裏をついてくる。どんな詐欺が広がっているのかを知っておくことはもちろん大切ですが、どんなアプローチをされても自分を守るガードテクニックを身につける必要があるでしょうね。

多田文明

多田文明
ジャーナリスト(評論家)・ルポライター
1965年、北海道生まれ。2001年に雑誌『ダ・カーポ』(マガジンハウス)にて、悪質商法に誘われたらついていく「誘われてフラフラ」という連載を担当。数々の勧誘の現場を取材・経験し、詐欺や悪質商法、マインドコントロールの手法に精通。テレビや雑誌、講演や講座などを通じ、詐欺や悪質業者の勧誘実態やだまされないための対策について広めている。著書に『キャッチセールス潜入ルポ~ついていったらこうなった』(彩図社)、『サギ師が使う 人の心を操る「ものの言い方」』 (イースト新書Q)、『ワルに学ぶ 黒すぎる交渉術』(プレジデント社)、『だまされた! 「だましのプロ」 の心理戦術を見抜く本』(方丈社)など。

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