はじめに

トランプ候補、ヒラリー候補ともにほぼ候補の座を手中に

アメリカの大統領選挙の候補者を決める予備選挙がいよいよ山場を迎えた。先に候補の座をほぼ手中に収めたのが共和党のトランプ候補。反対勢力が多いトランプ氏の場合、党大会までに過半数の予備選挙での票を獲得しなければ、決選投票で敗れるのではと言われてきたが、どうやらそのハードルを越えそうだ。

一方で、サンダース氏との接戦を繰り広げてきた民主党のヒラリー・クリントン候補もニューヨーク州の大勝利でその差を広げ、このままいけば5月中旬には民主党の大統領候補として当確になりそうだ。

11月にヒラリー・クリントン候補とトランプ候補が激突する大統領選挙の本戦も混戦必至だが、どちらが大統領になっても変わらないことがひとつある。それはアメリカがTPPを見直すだろうということだ。


TPPに猛反対のトランプ候補

そもそもTPPは現時点で米国の議会承認にめどがたっていない。唯一の推進役でもあるオバマ大統領は年内に議会での議論を進めたいようだが、残念ながら議会は11月の大統領選挙後まではTPPの議論を行わないことになりそうだ。これはつまり、オバマ大統領の在任中に強引に条約批准まで持っていくことは無理ということだ。

暴言が魅力のトランプ候補は、TPPについてはひとこと「ばかげた協定だ」と切り捨てて、強く反対している。経済の専門家を標ぼうする同氏だが、経済政策的には保護貿易主義を掲げていて、トランプ氏の「白人の仕事をアジア人やヒスパニックが奪っている」という考え方が多くの有権者の支持を得ていることから、大統領就任後はTPPの批准にはまったく力を入れないだろう。

トランプ大統領登場なら、まずTPPは議会で批准されることはないだろう。条約であるTPPは12か国の政治家同士で合意をしたとしても、議会が批准しなければ有効にはならない。つまりTPPは発効しないということになる。

ヒラリーがTPPに反対する理由は政治的なもの

一方のヒラリー・クリントン候補だが、基本的にはオバマ大統領の政策を引き継ぐことを基本路線としている。トランプとの違いとしても政策実行能力を全面に打ち出していることが特徴だ。その意味では本来ならTPPはそのまま継続する立場になってもおかしくはなかった。

ところが予備選挙でサンダース候補と接戦になり、春先にはあわや逆転という状況にヒラリーは追い込まれた。そのために製造業が多い中西部の州の予備選挙で方針を変え、「TPPは日本の自動車産業に有利に設計されすぎている」とTPPへの反対論を主張し始めた。

アメリカの大統領選挙は金がかかる。たとえヒラリー・クリントン候補が大統領になった場合でも、政権にはスポンサーとなった産業界から閣僚が指名で送り込まれる。そう考えると、有力な閣僚はTPP反対ないしはTPPの内容見直し論者で固められるだろう。

結果としてTPPは批准されない方向に

結果として、どちらの候補が大統領になっても、TPPは現在の構想通りには締結されないことになりそうだ。

その影響はというと、要は日本の工業製品がアメリカ、カナダといった巨大市場において、中国製や韓国製の製品よりも有利に販売できるという、当初の目論見が消え去るということだ。TPPは農業で我が国が打撃をうけようと、工業で経済成長を加速しようという目論見だったのだが、それが夢と消えそうだ。

悪いことに円高も始まり、日本の製造業の勢いは落ちてきた。この夏を境に、いよいよアベノミクスはとどめをさされそうだ。

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