はじめに

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナー(FP)が答えるFPの相談シリーズ。今回はプロのFPとして活躍する野瀬大樹氏がお答えします。

親しい友人が人材関連の会社を起業しました。その際に、餞別の気持ちで50万円ほど彼の会社に投資しました。この税金について、友人はエンジェル税制が使えるかもしれないというのですが、正直、私はなんのことかよくわかっていません。所得控除が受けらるれようなのですが、適用例が少ないことが話題になったこともあるそうで……。エンジェル税制のメリット・デメリットがあれば教えてください。
(30代前半 既婚・子供なし 男性)


野瀬: まずエンジェル税制についてお話しましょう。

欧米と比べてベンチャー企業に直接投資する個人投資家、いわゆる「エンジェル」が少ない日本において、エンジェルに税制上の優遇措置を与えることによって、ベンチャー企業を活性化させるためにできた税制です。

エンジェル税制のメリット

具体的なメリットとしては以下の2点が挙げられます。

(1)投資した年に所得控除が受けられる。つまり所得税が安くなる可能性がある
(2)投資金額分を、そのほかの株の儲けから差し引ける

(1)はインパクトが大きいように見えますよね。

例えば、500万円をベンチャー企業に投資すると、理論上その人の所得を約500万円減らすことができます。つまり「500万円×税率分」得をするということになります。税率40%の人であれば、200万円税金が返ってくるわけです。

でも、よく考えたら税率40%となると課税所得が1,800万円超の方なので、給料にすると2,000万円は軽くもらっている人ということになります。

あまり該当する人が少なそうですね。年収700万円だとしても、人によりますが税率20%ぐらいでしょうか。そうすると、お得になる額は「500万円×20%」で100万円と半減します。

では、「お金持ちの人であれば得なのか?」となりますが、実はさほどお得ではありません。なぜなら、この所得控除には1,000万円という上限があるからです。そのため、どんなに得をしても「1,000万円×40%」で400万円が上限ということになります。

(2)については、「今年はたまたま株で大きく儲けた」という人がいればお得かもしれません。

株で500万円儲けた年に、「偶然」ベンチャー投資を500万円行ったら、本来取られるはずの「500万円×20%=100万円」の税金が取られなくなる……というイメージです。

確かにお金が返ってくるのでオイシイといえばオイシイのですが、「株で儲けが出た年に、都合よくベンチャー投資」という条件が現実的には厳しい気がします。

税制に振り回されない投資戦略を

(1)にも(2)にも共通する話ですが、こういった投資を促進する税制の場合、そのメリットを得ようとするあまり自分の投資戦略をゆがめてしまう危険があり、注意が必要です。

特に(2)のメリットを得たいがために、わざわざ保有銘柄の利益を確定したり、税金を取り戻したいがために、興味もないベンチャー株に投資するような行動には気をつけてください。

消費税増税前の駆け込み買いもそうですが「やらなきゃ損」と思って、急いでやる行動のほとんどは「やった方が損」になるケースが多いのです。

相談者の方の場合、偶然友人の会社に出資することになったようですので「やらなきゃ損」には該当しないと思いますが、今後も「税制に振り回されない」という視点を常に持つようにしてください。

税制を受けるための手続き方法

実際にエンジェル税制を受けるためには、まずはじめに「投資先の会社が本当に『ベンチャー企業』に該当するのかどうか?」を確認してください。

「ベンチャー企業」と一言で言いていってもあいまいですので、分かりやすい判定シートがあります。質問に答えるかたちで対応できますので、一度判断してみてください。やってみるとわかると思いますが、意外と条件が厳しいです。

規模の小ささ、赤字黒字の判断、新規性、研究開発など条件が細かく定められており、結局「ベンチャー企業」に該当しない会社が多いのが実態です。

また相談者が狙っている(1)の所得控除については、キャッシュ・フローの判定をクリアしないと受けることができないので注意が必要です。

そして仮にクリアしても、申請書類がこれまた大変です。かなりのボリュームになり、2、3度に渡って手続きが必要ですので、手間もかかります。おそらく個人の方には無理ですので、投資対象のベンチャー企業の協力はもちろん、場合によっては税理士などに依頼する必要があるでしょう。

そうなると、この税制、本当にお得なのでしょうか?

質問者のように50万円投資して仮に税率が20%だとしたら、所得控除を使って返ってくるお金は10万円です。2度3度手続きをして、投資先にも資料を依頼して税理士にも報酬を払ってやっと10万円です。

そう考えると、よほど大きな投資にならない限りあまりお得にはならない気がします。

税理士の報酬にもよりますので、一度税理士に業務の見積りを出すのがいいと思います。ただ、エンジェル税制はそもそも実例が少ないので、報酬も相場があまりありません。お得になる金額は10万円程度だということを念頭において、やるかやらないかを決めるとよいと思います。

この記事の感想を教えてください。