はじめに

米国経済の堅調はいつまで?

それでは米国経済は、大統領選挙を迎える2020年にかけて、足元までのような底堅い成長が続くでしょうか。筆者はその可能性は低く、米国経済は2020年に経済成長率は1%台に大きく減速する可能性が高いとみています。

先述しましたが、米国経済は2019年秋口まで総じて底堅く推移しています。ただし、世界的な製造業の生産調整と貿易活動停滞を背景に、企業の設備投資はすでに4~6月から減少し始めています。米中の関税引き上げの悪影響が顕在化するため、グローバル企業を中心に設備投資に加えて、企業利益が今後減少するとみられます。

もちろん、FRBによる金融緩和が家計支出を増やすポジティブな効果は続くでしょう。その一方で、製造業の生産や設備投資の調整が労働市場を通じて消費支出を下押しする圧力が今後、徐々に強まるでしょう。

雇用統計が示す労働市場の姿には現状ほとんど死角がありませんが、中小企業による雇用計画サーベイや求人状況などの指標には“労働市場減速の兆候”がみられています。2020年には、雇用減速が個人消費を下押しする姿が鮮明になると予想します。

貿易活動や製造業の生産調整が国内需要に波及しつつあるのは、米国だけの話ではありません。サービス業の景況感を表す世界の購買担当者指数(PMI)は、10月に51.0と3ヵ月連続で低下して、2016年2月以来の水準まで落ち込みました。米国、欧州、日本の先進各国では、製造業の生産調整が非製造業の景況感悪化をもたらしつつあります。

FRBに迫られる路線修正

足元では、中国など製造業PMIの下げ止まりを受けて、金融市場では世界経済の早期底入れ期待が高まっています。ただ、景気減速が幅広い業種に広がりつつあることを踏まえると、世界的な景気底入れの時期は2020年央以降にずれ込む、と筆者は予想しています。

FRBは10月末の連邦公開市場委員会(FOMC)において、今後の利下げを見送るメッセージを打ち出しました。このため、12月のFOMCでは利下げは見送られるでしょう。ただ、景気減速の長期化を受けて、2020年には追加利下げに迫られると予想します。

また、FRBの利下げ期待の後退を受けて、米国長期金利が上昇し、為替市場でドル円相場は一時109円台までドル高・円安が進みました。しかしながら、今後FRBによる利下げが再開すれば、米国の金利上昇余地は乏しいため、ドル円相場は2020年にかけて再び円高に転じる可能性が高い、とみています。

米中通商交渉の進展、FRBの金融政策、中国の財政政策などへの期待を背景に、足元までの世界株高が目先も続くシナリオが想定できるでしょう。ただし、2020年にかけての世界経済停滞の長期化を背景に、2020年には株式市場を取り巻く環境が大きく変わると予想しています。

<文:シニアエコノミスト 村上尚己>

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