はじめに

出産後、そのまま離婚

子どもが産まれることだけは連絡しておこうと、ノリコさんは親と連絡をとりました。さすがに孫ができたとなると親は折れ、「出産はこっちでしたら?」と母親もやさしい言葉をかけてくれたそうです。

「出産ギリギリまで仕事をして産休をとりました。実家といっても自宅から30分くらいなんですが、久しぶりに母の手料理を食べてのんびりしていたらすぐに産まれてしまって。夫は病院に新しい車でやってきました。『ノリコとベイビーを乗せるんだから、安心して走れる車でないとね』って。気持ちはうれしいんですが、それにともなう収入がないじゃん、とツッコみたくなりましたね。彼がどのくらい稼いでいるのか知らなかったけど」

自宅に戻り、育休も半ばで母親に手伝ってもらいながら職場復帰しました。夫はいつも優しい言葉をかけてはくれるし、家にいれば子どもの顔をずっと見ているほどかわいがっていましたが、実際にめんどうを見るわけではなく、家事もやりません。悪気はなく、無邪気ですらあるのですが、そこがよけい彼女を苛立たせました。

「子どもを産んでくれてありがとうと、ダイヤの指輪をくれたんです。この人、どこかおかしいなと思いました。指輪より生活費だろって。まったくお金を入れないわけじゃないんですよ。ときどき30万ポンとくれたり、年末に100万円くれたこともある。だけどそれじゃ生活の計画が立てられない。悪気はないんですけどね……」

彼女は「悪気はない」を繰り返します。とうとう、夫に振り回されるのに疲れて離婚を申し出たのが結婚して8ヵ月後でした。

離婚届にすんなりサインしたはずなのに、ノリコさんが子どもを連れて実家に戻ると、彼は毎日のようにやってきました。子どもの顔が見たい、ノリコに会いたい、と。泣いて謝ることもありました。

「ちゃんと収支を報告してほしいと言ったら、それもやるから戻ってきてほしいと。しかたがないので、戻りました。私も彼には未練があったんですね、きっと」

再婚して3年が経ち

再度、婚姻届を出しました。その後、生活再建のために渋る彼を説得して、彼の経済状況を洗いざらい出してもらうと、結婚当初あった借金は、彼の親が返済してくれたと判明。でもその後、また100万円ほどの借金ができていました。

「3年ほどがんばったけど、のらりくらりして一向にきちんと生活費を入れない彼にうんざりして、30歳過ぎたころにまた離婚しました」

今度は夫も追ってはきませんでした。あとから共通の知り合いに、夫には女性がいたと聞かされ、彼女はショックを受けました。

「なんだかんだ言っても、彼と合うのは私だけだと思っていたんです。私、まだ彼のことが好きだったんですよね。だけどもう、一緒にはやっていけない。男性としては魅力的だけど夫としては最低でしたから」

彼のことを忘れて生きていこうと決め、彼女は仕事に精を出しました。男は裏切っても仕事は裏切らない。そう心に誓いました。

「ようやく仕事のおもしろさも怖さもわかってきたのがここ数年ですね」

彼もときどき、子どもの顔を見に来てはいましたが、彼女はほとんど彼と言葉を交わすことはありませんでした。

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