はじめに

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナー(FP)が答えるFPの相談シリーズ。今回はプロのFPとして活躍する野瀬大樹氏がお答えします。

私たち夫婦には子供はいませんが、主人がバツイチで前妻との間に子供がいます。現在の勤め先には退職金制度がなく、貯蓄性保険や確定拠出年金などでの備えが必要だと考えています。しかし、私どものような状況が続いた場合、万が一、主人が死亡したときには私と前妻の子供で遺産を分配することになると思います。

前妻は再婚しており、現在連絡を取っていません。そのため主人の意向としても、なるべく今の家族に遺したいと思っているようなのですが、その場合はどのような方法での運用を考えればよいでしょうか?

現在は共働きでお互いの収入は同じくらい。住居購入はしていません。購入するとしても、なるべく多くの配分を私名義にする予定です。また収入を私の口座にまとめて、そこから生活費を出し、貯蓄は私名義の別口座へ移すようにしています。初婚夫婦のようにはいかないと思いますのでアドバイスお願いします。
(20代後半 既婚・子供なし 女性)


前妻の子 vs 新しい妻

野瀬: なにやら以前、関西で話題になった事件のような話ですね。ご当人からの相談ではないと思いますが、あの事件を例にすると理解しやすいと思いますので、少し照らし合わせて考えてみましょうか。

知らない方もいらっしゃると思いますので、その事件を整理します。登場人物は大物芸能人Tさん、その娘A、そしてTの後妻Bです。Tさんが亡くなったあとには莫大な遺産があったのですが、遺言状では実質そのすべてをBさんに譲ると書いてあったので、実の娘であるAさんが異議申立をしました。

どちらの意見が正しいのか? 真相は藪の中でしたので、ワイドショーやテレビが取り上げ、双方がマスコミを通して互いの主張をぶつける泥試合になりました。

「遺産はすべて〇〇に譲る」

サスペンスドラマであれば、遺産をもらえなかった遺族がガクッと崩れ落ちるシーンになります。そこから想像するに、遺言状があればもうすべての遺産はBさんのものと思えるのですが、現実にはそうではありません。Aさんが「いやいや、私にもくださいな」と主張すれば、遺産の4分の1はもらう権利があるのです。これを遺留分といいます。

世の中には不当な理由で親に冷遇された人もいるでしょうから、不平等を避けるためにもこのような制度があるのです。ですので、質問者の方が旦那さんに「すべての財産を譲る」と遺言書を書いてもらっていても、その通りには進まない可能性も十二分にあるのです。

ついでにお話しすると、サスペンスドラマで遺言状がまるですべての決定権を持っているように描かれるのは「そのほうがおもしろいから」です。

桐の箱の中からでてきた遺言書を見て、「まあ、問題ないです。私には遺留分がありますので……」なんて登場人物が言い出したら殺人事件は起こらず、ドラマはおもしろくなくなります。芸能人の事件の場合は、Aさんが遺留分の4分の1では納得いかないので揉めごととなったのだと思います。

生前の協議と生前の贈与

では、質問者の方はどうするべきなのか。

旦那さんの遺産を100%もらうために具体的にどうするべきなのかというと、旦那さんがお元気なうちに遺産の分割について話合いをして、100%質問者の方が相続することに同意した旨を書面で残しておくことです。

この協議及び書面には法的拘束力はないのですが、いざ相続のタイミングになった時に「昔、私が100%相続することに同意していましたよね」という説得の材料になります。

ですから、「生前に話し合い(生前協定)」を行い、「実際の相続時に先方には放棄してもらう」という流れが王道になります。

現在、前妻とそのお子さんとは連絡を取っていないとおうかがいしていますが、相続の際には原則としてすべての法定相続人の意思を確認する必要があります。お話のニュアンスから「連絡は取っていないが連絡先は知っている」というように読めますので、きちんと連絡を取る必要があります。

知っているのにあえて連絡せずに相続を進めると、悪意があるとみなされて相続資格を欠格する可能性もなきにしもあらずですので、注意してください。

でも、協議しても先方が受け入れるはずがない、という場合には、少し効率は悪いですが生前の贈与という方法をとるとよいかと思います。まだ旦那さんがお元気なうちに、少しずつ名義を移しておくとよいでしょう。

この際、年間110万円までですと贈与税もかかりませんが、少しぐらいオーバーしても贈与税は110万円を越えた部分に10%ですので、税負担はあまり大きくはありません。贈与のスピードと税金負担を考えて進めるとよいでしょう。

また、この際には贈与の証拠となる書面を残しておくことをお忘れなく。金額、相手、日付について詳細に記録しておくとよいでしょう。

私の経験上、相続において「前妻の子と後妻」の話合いはほぼ100%うまくいきません。生前協定にしろ、贈与にしろ、かたちだけでも旦那さんが主導してことを進める必要がある点はご注意くださいませ。

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