はじめに

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナー(FP)が答えるFPの家計相談シリーズ。今回はプロのFPとして活躍する野瀬大樹氏がお答えします。

自分でも不思議だとは思うのですが、「お金儲け」ということに対して躊躇してしまいます。私は小さいながら個人事業を営んでいるので、時折、うまくいけばかなり儲かりそうな仕事の話が舞い込むことがあるのですが、つい遠慮してしまいます。

幸いにも、ひとり暮らしで一般的な生活ができており、自分のなかではそれなりに生活にも満足しているのですが、他人からみるとかなり変に見えるらしく、彼女からも「あなたはおかしい」と、バカにされる始末。

どうしてこんな思考なのか振り返ってみると、私はどこかで「自分が得をすれば、どこかで誰かが損をしているのではないか」と考えてしまっているようです。それによって、つい判断が鈍ってしまいます。こんな私にお金のプロの方から喝を入れていただきたいです。また、お金のプロの方のお金との向き合い方についてお話を聞かせてください。
(20代後半 独身 男性)


野瀬: うーん。質問者の方はなんとなく私と近い人なんじゃないかなと思います(笑)。

その気持ち、なんとなくわかるんですよね。私も個人事業主として生計を立てています。売上はそんなに多くはありませんが、子供もいないため、日々の生活にはまったく困っていません。

そのため、営業もそんなガツガツしていません。仕事の見積書を作る時も、「このお客様の会社は、まだまだ大変そうだからなぁ」と勝手に値下げを加えてしまうことも多いです。

そして、それを見た家内から「あなたはおかしい」とよく言われています。そのあたりまで似ていますよね。

「お金を払う」行為とは?

さて、ここで「お金」について少し整理してみましょう。

当然ですが、お金は「誰かから」いただかないとダメなので、私たちの収入はほかの誰かの支出となるわけです。

その意味では、質問者の方がおっしゃられている「自分が得をすれば、どこかで誰かが損をしている」は正しいようにも思えます。

しかし、本当にこの「お金を払った誰か」は損しているのでしょうか?

そうではありません。なぜならその人はお金を払っている以上、なにかに納得をしてご質問者の方に支払い、対価を手に入れているからです。

それがサービスなのか、モノなのかはわかりませんが、ご質問者の方が提供する対価がほしくて、お金を払っているはずです。

そう考えると、お金を払う行為には、そこに詐欺的な行為がない限り、誰が得で誰が損ということは存在しないのです。

ですので、人になにかを提供する時は「騙さない」、そして人からなにかを買う時は「騙されない」ことに気を付けていればよいと思います。

お金との付き合い方で意識していること

私自身のお金との付き合い方を説明することは難しいのですが、基本的な5つのポリシーについてお話しておきます。

1:生活費を下げることに慣れる

人間は一度贅沢に慣れてしまうとなかなか戻ることはできません。私のような自営業者の場合、いつ収入が減少するかわかりませんので、衣食住の基礎生活は極力質素にするように心がけています。

服はファストファッション、家は築古賃貸、食事は自炊が基本です。そうすることで仮に収入が一時的に下がったとしても、問題なくその期間を乗り切ることができます。

月収を1,000円でも増やすことは難しいですが、月々の支出を1,000円減らすことは簡単です。どちらも効果は同じなので、毎月の支出をスリム化することは、お金を貯める上で、ものすごく重要なこととなります。

特に、家はそこからあらゆる支出に派生しますので、家選びには本当に気を付けるようにすべきです。「自分にはこれくらいの価格帯がちょうどよい」と思った物件の60~70%ぐらいの価値のものがよいでしょう。

2:予算を分けることで行動を変える

私は収入から生活費を差し引いた残りをすべて用途別の預金口座に振り分けてしまいます。

私の場合は、投資、不動産、交際費、貯金に振り分けるようにしています。

こうすることで、普段は投資に熱心でなくても強制的に投資を行うことになりますし、人と飲みに行く際にも罪悪感なくお金を使うことができるからです。

「態度が変われば行動が変わる」という名言がありますが、そのお金版「お金が変われば行動が変わる」とでも言いましょうか。

「英語の勉強のためだけに使ってよい口座」「親孝行のためだけに使ってよい口座」などを設けることで、自分自身の行動をなりたい自分に強制的に変えるのです。

3:好きなものは買う・好きでもないものは買わないを徹底

これは家計関係のセミナーなどで私が口を酸っぱくして言っていることなのですが、本当に心の底からほしいものは、どんどん買ってください。

節約とは、お金を使わないことではなく、好きでもないものにはお金を使わず、そのお金を「好きなことに躊躇せず使う」ことなのです。

私たちは周りの目を気にして、本当はほしくもないのに高い買い物をしてしまうことがあります。

例えば、ブランド服やタワーマンションなどがこれに当たるかと思います(もちろん本当に好きな人もいますが)。

日常生活のさまざまな場面で、「本当に好きなものはなにか? 本当にやりたいことはなにか?」という問いを自分に問いかけ続けることが、賢いお金遣いの第一歩となるのです。

これを予算の振り分けと組み合わせるとよいでしょう。

4:貯金以外の投資資金は「ない」ものと考える

私は、一度投資した資金は基本的に「返ってこない」と考えています。配当や家賃などで収入があっても、基本的にはすべて再投資するようにしています。

大きな相場の動きがあった場合、資産ポートフォリオを動かすことはありますが、それも数年に一度で、基本的には株の儲けは再び株へ、不動産の儲けは再び不動産へ投資するという行動を取り続けています。

これは、投資である程度儲かったとすると、そのお金をあてにしてしまうからです。本業をおろそかにしないためにも、いったん投資したお金は返ってこないものと考えます。

同様に「今年は不動産で損したけど、株が儲かってるからいいや」と考えてしまうと、各々の投資の成果が曖昧になってしまうので、このあたりのケジメをつけるようにしています。

具体的には証券口座から出さない、不動産用の銀行口座から出さないというかたちです。

5:「お金」ではなく「数値」として考える

これは4つ目の話とかぶる部分もありますが、貯金や投資を「お金」と考えず、「数値」と捉えるようにしています。

私はシミュレーションゲームが好きで、特に「信長の野望シリーズ」が大好きなのですが、例えるならそのゲーム上の「金」と「兵糧」のような感覚でお金を見るようにしています。

お金と考えてしまうと「もったいない」とか「もう少し儲けたらアレが買える」など、さまざまな邪念が出てしまうのですが、数値として見ていると、それが増えることだけが楽しみになるので邪念が入らず、機械的かつ客観的な判断がしやすくなるのです。

以上が私の個人的なお金に対する考え方になります。ご参考になれば幸いです。

この記事の感想を教えてください。