はじめに
2月最終週に入って、米欧の金融市場では新型コロナウイルスが世界的に拡散するとの懸念が高まり、株式市場は軒並み急落しました。一方で、安全資産である米国債に買いが集まり、米10年金利は26日にかけて1.30%すれすれの所まで低下。終値ベースでも史上最も低い水準まで低下しました。
アジア限定のリスクと認識されていた新型コロナウイルスの感染が米欧にも及ぶとのシナリオは、多くの市場関係者に大きなサプライズとなりました。新型ウイルスの感染力の特性から水際対策に限界があったことは、日本での経緯を踏まえればある程度想定することはできたのでしょうが、米欧の市場関係者は寝耳に水だったようです。
事態は市場参加者の想定を超えている
新型コロナウイルスによって、これまで経済活動抑制を続けている中国だけではなく、米欧を含め世界経済全体の経済成長を抑制するリスクが浮上しました。不安心理が金融市場で広がるのはやむを得ないとは言えますが、コロナウイルス騒動についてやや油断していた米国の株式市場には、まだ下振れ余地がありうると、筆者はやや慎重にみています。
実際には、米国まで新型コロナウイルス感染がある程度の規模に広がり、経済活動を大きく抑制するかどうか――。これを現段階で予想するのは、明らかに筆者の力量を超えますし、感染症の専門ではない多くの金融市場関係者も予見することは難しいでしょう。
ただ、日本でこれまで起きてきた経緯を踏まえると、米欧の市場参加者が想定しているよりも、米国での感染拡大、そして経済活動抑制が起こる可能性があると、筆者はみています。
コロナウイルスに起因する、さまざまな不確実性がどうなったら和らぐのか。これも予想するのはかなり困難ですが、「ウイルス感染拡大で経済が失速する」「医療制度が政治的にこれまでより重大なイシューになり、大統領選挙の行方を左右する」など、米国の状況がさらに混乱する展開が容易に想定されます。
「世界景気後退」到来の分水嶺は?
予想することすら難しい不確実性が高い中では、投資家の不安心理が払拭されるのは難しいでしょう。
もちろん、これまで判明している米国の経済指標は、ごく一部を除き、総じて堅調なままです。ただ、今後発表される経済統計は、米国を含めて総じて鮮明に悪化すると予想します。
中国発のサプライチェーンの混乱に加えて、米国経済の先行きへの懸念が強まり、たとえばISM製造業景況感指数が春先にかけて再び50を大きく下回り、景気後退が強く意識される45付近まで急低下する可能性があります。米国の株式市場では、こうした事態をまだ十分に想定していない可能性があるとみています。
一方で、冒頭で説明したように米10年金利は1.3%付近と、かなりの低水準まで低下しました。今後起こりうる米国の経済指標等の悪化を、債券市場は一足早く織り込んだように思われます。
これは2019年前半までと同様に、米国を含め「世界景気後退」といえる経済成長率の大きな低下が起きることが再び織り込まれつつあるといえます。実際に、どうなるか予想ができない新型ウイルスを理由にすれば、「いよいよ世界景気後退到来」とのシナリオを描くことは難しくはないでしょう。
<写真:ロイター/アフロ>